日常、九十四日目。
IKEAに着いた。日曜日とあってかなりの込み具合だ。あちらこちらで空きスペースを探す車でごった返しており、その上フランス人の他人への無配慮が重なり、もう無法地帯化している。地下の駐車場に下りたや否や、ママンが、"あたしは入り口の所で下ろしてね。”と、言う。ラパンは息子だが、その言い方は運転手扱いでしょう…。言われなくても、しますよっ!と言いたくなった。とにかくママンをエレベーターの近くで下ろす。勿論私とムートンも一緒に下りた。すでにゼーハーゼーハー言うママン。これからこの巨大なIKEA内を歩くって言うのに、大丈夫なのか本当に不安になった。ラパンは車を駐車しに行ったきり、来ない。そこでも異様に苛つくママン。“何してんのかしらっ!”と、繰り返し言う。ラパンがやっと来た。上に上がって早速、カスタマーセンターへ。何故なら、テーブルセットを買った時に一緒に買ったものを返品したいからだ。ママンの返品は今まで何万回しているだろうか。買っては取り替え、買っては取り替えしている。そうしていると今度はムートンが発狂し始めた。この人ごみの中で自分でカートを押したいらしい。無理な所まで入り込みたいムートン。それは出来ないと言うと、発狂した。IKEA中に広がる叫び声をまき散らしながらムートンを外に出す。私も怒り頂点だ。カスタマーセンターで返品を終えたラパンが我々を迎えに来た。は~、やっとお買い物開始だ。ムートンはカートを押してご機嫌。ママンはゼーハーゼーハーいいつつも360度物色。ラパンはムートンのカートを誘導、管理。私はママンの使いとしてあれやこれや指示されたものを手元に持ってくる。そして我々3,5人はノロノロと進み、10メートルごとに休憩。と、そんな時、ママンがスタスタと軽いフットワークである売り場に勝手に一人で進んで行く。そして、いきなりラパンに”これ、キッチンにどうかしら?テーブルセットと合わない?”と、聞くじゃないか!その”これ”とは、食器棚として使える棚であった。もちろん、簡単な組み立て式とはいえ高さはラパンの身長ほどある立派な棚である。それを見たラパンは驚きもせず、”いいんじゃない?”と平然と答えている。もちろん、オーガナイザーとして一流な私の頭の中には今日乗って来た車のサイズとメーター、段ボールに入った組みたてる前の棚の姿そして我々人間3,5人分の積量が浮かんだ。ドキドキ高鳴って行く心臓を感じていると、ラパンがママンに軽い口調で言った。”でも、今日は買えないよ。車に入らないから。”よっしゃー!いいぞ!ラパン。先手だ!先手!と、心の中で叫んでいると、ママンもまた軽い口調で、”そう?組たったてないから大丈夫じゃない?横の高い部分は車のドアと座席の間に入るでしょ。”と、攻撃を翻して来た!入る訳ねーだろー!!!と、心の中で頭の中でムートンがディスプレイに置かれた本をこねくり回すのを押さえながら何回も叫んだ。”とりあえず、下の何処でピックアップできるか棚の番号を控えといて。”と、サラリと事を進めて行くママン。”いいけど、今日は無理だから。”と、手を打ち続けるラパン。この時から、ラパン親子対決が始まった。その後、ラパンは無口となり、さっさと我々の今日の目的であるメタル製の引き出しを探す。その間にもゼーハーゼーハーいいながら10メートルおきに止まるママンだが、あちらこちらで色々と私に注文してくる。それをラパンは不機嫌そうに見ている。当初、テーブルカバーを買いにくると言っていたが、それ以外にソファーカバー、ベットカバーも要ったらしく、あれはどうだ?、これはどうだ?と物色しては私に”色目は合うか?”と聞いてくる。個人的な好みはそれぞれ違うし、特に彼女のこだわりは人以上だと知っているので、“私は好きだけど…”と、付け加えて言っていたが、”これじゃ、(部屋が)暗くなりはしないか?でも、白じゃ、汚れやすい。”と、細かいし、第一IKEAなんだから!100万色も色は揃ってないっちゅーの!いい加減、最後の方は”もう、分かりません。”とだけ言っておいた。そうしていると、今度は勝手に近道を使って違うコーナーに行こうとするじゃないか!自分の必要のない所は飛ばすんか!引き出しはこの先なんですけどーーー!!!引き出しの棚ナンバーも控え、あとは小物が残るだけ…と思っていたら、キッチンコーナーで止まるママン。なんじゃ?なんじゃ?何がまだ必要なんじゃ?ワインボトルの台だ。これは、どうだ?深さは大丈夫か?さっきの棚より深くないか?酸素補給機のベルトで棚の幅を計ったからそれと合わせて計ってみろ。色は合うか?何本入る?だから何個いる?ボトル入れはこれしかないのか?止めてくれー!!!!そんなの知るかーーー!!!しかも、あげくの果てにOKを出したこのボトル入れが見つからない。きっと品切れだ、と言うと、あっちじゃないか、こっちじゃないかと探させる。でも、やっぱり品切れっぽいよ、と言うと、“全く、せっかく来たのに、品切れか!”と逆ギレのママン。いい加減にせーーい!ラパンは無言のまま、ムートンのカートの誘導、管理。でも、顔がかなり引きつっていた。早く帰りたいラパンをよそに、ママンがお昼を食べよう、お礼に私が奢りたい、と言う。ラパンの怒り絶頂。目がピキピキしている。ムートンは腹減ったというので、でしょう?と勝ち誇るママン。ママンとムートンを残し、ラパンと2人でランチを取りに行った。もちろん怒り絶頂のラパンは“食べない。”と言っている。と、いいつつもIKEA名物、DAIMのケーキをお盆にのせていた。もちろん、牛の胃を持つ私はごちそうにあずかりゆっくりとお腹を満たさせてもらいましたよ。さて、ご飯タイムも切り上げ、後半戦の始まり。この先、ラパンの不幸はさらに続く。