|
カテゴリ:連載小説
ところで、その中尉ってえのは、何をやらかした んだ、って? 長橋中尉はね、150人の兵を率いて麹町の 鈴木貫太郎侍従長官邸に乱入したんだよ。 ところが、めざす侍従長に天誅の弾丸を浴びせたら、 夫人が泣いて夫の命乞いをしたっていうじゃないか。 そこは、長橋中尉のことさね。女子供に手出しは しやしないのさ。 やむなく夫人の懇願をききいれて、とどめの刃を 刺さないで、さっと敬礼して、その場を引きあげた。 そのおかげで鈴木侍従長は死をまぬがれたんだよ。 その引き際は、さすがに鮮やかなものだったよ。 小勇姐さんは、この話をひとつ話にしては 中尉のことを自慢してたよ。 惚れ直したってね。 私だって同じ気持ちだったよ。 中尉はにがみばしった、いい男だったから、 私だけじゃない、ほかの芸者衆にもずいぶん もてたしね。 このことで、また一段と男をあげたってわけさ。 (続く)
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006年10月11日 06時41分23秒
[連載小説] カテゴリの最新記事
|