カテゴリ:国政・経済・法律
人口戦略会議の「自治体持続可能性レポート」が反響を呼んでいる。そこで、当ジャーナルで対策の考え方を整理してみた(情報源は主に下記、敬称略)。 ・人口戦略会議『人口ビジョン2100:安定的で、成長力のある「8000万人国家」へ』2024年1月 ・人口戦略シンポジウム(4月24日)における資料や発言など ■今回のシリーズ ・自治体持続可能性分析レポート(人口戦略会議)を考える(その1)全体(2024年04月26日) ・自治体持続可能性分析レポート(人口戦略会議)を考える(その2)自治体ごとの結果(2024年04月26日) ・今回 自治体持続可能性レポートと少子化対策・地域づくりを考える(2024年04月27日) ■関連する過去の記事(令和5年人口推計(全国、地域別)についてのシリーズ) ・地域別人口推計を考える(その1)(2024年01月31日)=地域別推計結果の概要 ・地域別人口推計を考える(その2)東北の市区町村(2024年02月14日)=個別の市区町村の結果 ・地域別人口推計を考える(その3)(2024年02月15日)=将来推計人口について ・地域別人口推計を考える(その4)移動仮定と封鎖人口(2024年04月25日) 1 問題の理解 (1)比喩 高齢化は漕ぎ手がオールを置いて一般乗船客になる問題。少子化はボートの中の人間がどんどん減る問題(白川方明)。 (2)3つの基本的課題(人口ビジョン2100) ・国民の意識の共有(人口減少のスピード、超高齢化と地方消滅) ・若者、特に女性の最重視(希望を持てる環境づくり、子供を持つリスクや負担の解消) ←未婚女性の非婚就業予想が急増、非正規社員は正社員より意欲低い、女性就労のL字カーブ(30歳以降非正規)etc ・世代間の継承・連帯と「共同養育社会」 (3)未婚女性と「非婚就業」予定の増加(永瀬伸子) ・出生動向基本調査では、34歳以下未婚女性の希望ライフコースは、非婚就業コース(結婚・出産せずに仕事)が増加(12.2%←前回5.8%)、予想ライフコースは、非婚就業コースが3分の1に増加(33.3←21.0)。 ・下がった予想ライフコースは、再就職コース(子育て後に再就職)(22.7←31.9)と専業主婦コース(3.5←7.5)。いずれも希望コースでも低下している ・非婚就業コースが上昇したのは、子供を持つと収入を失う、自由時間が無くなる、離婚リスクで女性が貧困に陥るから、簡単に子を持てない。また、結局女性が子育て責任をとらねばならない、教育費も不安などの声が聞かれている。このため、家事ケアのための無職の恐れがない未婚女性が増えているのだ。 ・なぜか。若年者の子育て不安を解消する政策がとられていない。(a)非正規が拡大したが、非正規の訓練機会や賃金格差縮小などの強い雇用ルールがない、(b)出産後3年で仕事に戻るなど、欧州で行われている雇用ルールを、(c)大学奨学金の軽減方策がない、(d)離婚の際に父親の養育費支払いが義務化されていない、(e)男性育児分担を奨励する政策がない、など。 ・非正規は有配偶女性ばかりでなく、若年男女や中高年シングルにも拡大。年収のカベ問題。 ・母親の多くが就くパートを改革する変化が最も重要。 ・不妊治療時期(40歳前後がピーク)を早められないか 2 危機感が共有されない5つの理由と問題(白川) (1)明治の初めに戻るだけ →それで静止する展望がない (2)個人の価値観に立ち入る懸念? →社会全体(働き手、年金etc)の問題だ (3)経済的豊かさ求める時代終わった(文明論)→生活インフラや精神的豊かさの余裕なくなる (4)イノベーションや生産性向上で解決 →現実に見合う向上は限界 (5)受け入れるしかないor手遅れ(諦観論)→深刻な帰結を認識しあらゆる手立て講じたか 3 重要な3つの視点(白川) ・国民間の対立図式(高齢者vs現役、子供いる人vsいない人etc)で論じないこと ・政府の仕事と考えないこと。子育てに優しくない各種社会慣行の是正を (ゼロサムのように思われているが、社会的慣行の是正でプラスサムに転じる) ・安定的な財源の必要 4 政治の取り組み方 ・国家ビジョンを議論する場がない(人口ビジョン2100) ・政治の本気度の問題 ・国会は政府との論戦なので同じ方向の議論しにくい ・地方への投資を大胆にすべき(東京の議員が止めないこと、木原誠二) ・1953年人口問題審議会設け、1997年報告書採択。審議会は2000年見直しで廃止。その間、子供は2人までとの抑制策さえあった(公団住宅サイズが関係との指摘、大島敦)。1.57ショックでも本気にならず(宮本太郎) ・優等生スウェーデンも1930年代は保守派(女性は家庭に)とリベラルの対立で進まず。ミュルダールの貢献もありラウンドテーブルに。 5 政治が取り組む際の2つの重要な視点(宮本) (1)合意と掘り下げ。2014レポートで地方に30万人の雇用と謳ったのになぜ実現できなかったのか。(2)若い世代の不安や怖れによりそう(←大学あげてやれるか、良い子育てできるかetc) 6 取り組むべきこと=2つの人口戦略(人口ビジョン2100) 定常化戦略と強靭化戦略で、未来選択社会の実現を (1)定常化戦略 ・人口定常化には、人口置換水準TFR2.07の継続が条件 ・将来推計人口は、3ケース(高位・中位・低位)とも定常化せず、高齢化率高止まり ・(独自試算により)めざすべきは、2060年にTFR2.07達成、2100年総人口8000万人のケース ←2040年頃TFR1.6,2050年頃1.8程度に上げる。 =高齢化率は、2054年ピーク36%のあと、30%に低下 (2)強靭化戦略 ・人口が定常化しても効果発現に数十年。またその規模は小さくなる。このため、社会経済システムの質的な強靭化と多様性に富んだ成長力ある社会をめざす ・労働生産性の伸びは内閣府ベースラインを想定 ・定常化戦略により2050-2100年の平均成長率は0.9ポイント上昇 ・さらに、強靭化戦略(生産性向上)で2020年代以降1ポイント引き上げ ・2つの戦略で成長率プラスを継続 ・一人当たりGDPは2101年に2.5倍程度 (3)未来選択社会 未来として選択しうる望ましい社会の姿 =幸福度(例、一人あたり可処分所得)が世界最高水準、個人と社会の選択が両立、多様なライフスタイル、世代間の継承と連帯 7 定常化戦略の論点(人口ビジョン2100) (1)若年世代の所得向上と雇用改善(最重要) 正規化、労働法制、年功序列カーブ、男女格差、中小企業対策(生産性向上と価格転嫁)、地方企業の魅力向上 (2)共働き・共育ての実現 L字カーブ問題、育児給付制度、社会保険被扶養者問題、長時間労働、同調性意識排除 (3)多様なライフサイクルが選択できる社会づくり ライフイベントの集中する20代30代(人生のラッシュアワー)で多様な選択を可能に。制度や社会規範の見直し。また、高齢者就労の促進 (4)プレコンセプションケア 晩婚化晩産化のなか、若い男女の選択を支えるため、健康管理やライフプラン設計の意識を高める (5)安心な出産と子どもの健やかな成長の確保 妊娠、出産、育児の一貫した伴走型相談支援と経済的支援。地域全体で支える体制、正常分娩の保険適用、虐待対策、一人親(特に母子)家庭の支援 (6)子育て支援の「総合的な制度」と財源 子ども一人当たり家族関係支出をスウェーデンなみに引き上げ。また、2030年代初頭までに予算倍増(加速化プラン) (7)住まい、通勤、教育費など(特に東京圏) 住宅費高騰と通勤長時間で若い男女の可処分所得が低水準。さらに教育費(塾も) →東京集中の是正は不可避 8 強靭化戦略の論点(人口ビジョン2100) ・戦略の本質は、生産性上昇率の更なる引き上げ ・人への投資の強化。(1)人材育成のオープン化、(2)教育費用個人負担の軽減(公費支援)、(3)教育の質的向上、(4)企業等での能力資質向上、(5)子育て世代が子育てや学びに使える「可処分時間」の増加、(6)教育分野の規制改革と分権 ・ローカルインクルージョンとグローバルチャレンジ 9 永定住外国人政策(人口ビジョン2100) ・(移民の語はともかく)既に日本は労働移民(労働目的の永定住)は年間33万人、世界第5位 ・アジアからの人口移動は年間590万人。湾岸諸国、次いでOECD諸国(230万人)うち日本が48万人と最多。依然、日本への就労希望は強い ・しかしながら、永定住外国人の総合的戦略はいまだ策定されず ・人口定常化のための補充移民政策は(年間75万人入超が必要)、非現実的で、また社会の安定性にも危惧 ・永定住外国人政策の視点は、高度・専門的人材を基本とする。非高技能は、慎重に検討 10 人口戦略の進め方(人口ビジョン2100) ・EBPMの政策立案プロセス ・内閣に推進本部を設置(司令塔)、また政策研究部門を設置 ・国会での超党派の合意形成(プログラム法) ・民間(ESG項目としての認識)と地域の主導的取組。若年女性の東京集中の是正のための戦略会議 11 欧州の出生動向(金子隆一) ・2010年代以降、出生動向に新たな変動。大まかには二極化 ・これまで出生率高かった北欧や仏で一斉に低下(仏1.80 瑞1.53など) ・一方、90年代の経済体制転換以降低迷した東欧で反騰(羅1.81 チェコ1.82など) ・南欧諸国も低迷している ・独は家族政策の充実。2016年1.6に飛躍的上昇するも、2020年急降下 ・フランスについて。年次TFRは1993年最低値1.66まで低下したが、世代TFRでは概ね2.0を下まわらず推移している (年次TFRはその年の各世代の出生行動の強さ。日本の丙午の例では、その年出産控えた(TFR1.58)が、結局生涯で2.0を下回った世代はなかった。世代TFRは50歳にならないと測定できないので、例えば30歳の世代の世代TFRは20年後でないとわからない。) ・晩産化になる場合に、年次TFRにテンポ効果(先走って低下)が出る。フランスはこれであり、平均出生年齢の増減とテンポ効果の存在が一致する。生涯を通じては安定的に実質的出生力が保たれている ・スウェーデンについて。年次TFRは変動幅が大きいが、フランス同様、テンポ効果を含んでおり世代TFRは安定的に観測されている。 12 地域づくりとの関係(人口戦略シンポジウムでの発言) ・住み続けられる地域であること、保育料無償化はインパクトあった、女性が(短大が消え)県外に出るのをどう戻ってもらうか(平井伸治) ・寛容性ランキングで富山県43位。女性に選ばれない地域でなくすること(田中幹夫) 13 社会減対策と自然減対策の関係(当ジャーナル整理) (1)自治体持続可能性レポート(4月24日)の示唆 ・前回記事 自治体持続可能性分析レポート(人口戦略会議)を考える(その2)自治体ごとの結果(2024年04月26日) ・同レポートは移動仮定と封鎖人口の各将来推計を比較しながら、市区町村ごとに自然減対策と社会減対策の必要度を示唆する ・両者の関係について。各自治体の対策は社会減対策に重点が置かれすぎているきらいがあるが、(東京圏への流出防止はともかく)若年人口の奪い合い(ゼロサムゲーム)は出生率向上に結び付かず日本全体の人口減少を変える効果がない(同上分析レポート)。 (2)東北地域のデータと評価(当ジャーナル) ・令和5年推計(地域別)で、封鎖人口推計を自然増減とし、「推計人口(移動仮定)-封鎖人口」を社会増減として、データを確認すると(若年女性人口ではなく全人口)、下記の通り ■(図)当ジャーナル作成 ・人口推計では、(東北の場合)人口減に占める自然減のシェアが非常に高い。 ・人口減の主因は自然減。流出(社会減)を止めても人口減少は止まらない(小池司朗) ・しかし、(社会減対策はたしかにゼロサムの側面は強いが)集中のデメリットを抱える東京圏からの移動促進は、国全体でもメリットになる (3)考え方 ・基本的には実効性ある自然減対策(出生率向上)を根気強く続けるべき ・併せて、(特に地方レベルでは)社会減対策が即効性を持ち、また、地域づくりの総力を高めることに繋がる ← (例)移住者の視点による地域資源の見直し、高齢者の巻き込み ・高度成長期は東京も出生率高かったが、「東京生まれ東京育ち」が増え一流の大学を出る(結婚こだわらない)価値観の定着化につながっているのでないか。いかに価値観を変えるか(小池) ・地方のことが知られていない。情報発信が重要(小池) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.03 12:41:56
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