カテゴリ:国政・経済・法律
地すべり、宅地被害、活断層などに関する基礎知識の整理。下記文献から。 ■釜井俊孝『宅地の防災学:都市と斜面の近現代』京都大学学術出版会(学術選書090)、2020年 ■関連する過去の記事 宅地災害フロンティアの東北(2024年05月28日)=上掲書に基づく記事 1 土砂災害 ・地すべり、土石流、崖崩れ、のこと ・(おだずま記載:土砂災害防止法第2条の定義) 「土砂災害」とは、 (1)急傾斜地の崩壊(傾斜度30度以上の土地が崩壊する自然現象) (2)土石流(山腹が崩壊して生じた土石等又は渓流の土石等が水と一体となって流下する自然現象) 若しくは (3)地滑り(土地の一部が地下水等に起因して滑る自然現象又はこれに伴って移動する自然現象)(→(1)(2)(3)を「急傾斜地の崩壊等」と総称) 又は (4)河道閉塞による湛たん水(土石等が河道を閉塞したことによって水がたまる自然現象) を発生原因として国民の生命又は身体に生ずる被害をいう ・日本では、崖崩れが多い(地すべり、土石流の合計より多い) 2 崖崩れ ・崖(急斜面)が浅く崩れる現象。自然斜面のほか人工的に作られた(切土盛土)斜面を含む。 ・地質との結びつきは、地すべりほど強くない ・各県が把握する急傾斜地崩壊危険個所がひとつの指標。約33万カ所(平成15年) ・県別は広島県が圧倒的に多く、山口、大分、島根、兵庫と続く ・西日本に多いのは、地質(素因)と降雨(誘因)によると考えられる ・地質は、中国地方と兵庫には花崗岩がひろく分布。風化して真砂(マサ)となる。家の裏手に砂の崖ができるのが一般的。雨が浸水して容易に崩壊 ・また、大分県には火山岩・火山噴出物が広く分布し、割れ目や脆い岩石の崖が多い ・南九州には、シラス(姶良カルデラ噴出の火砕流堆積物)やボラ(降下した火山灰)。シラスは真砂(マサ)によく似るが、斜面上のボラがシラスの上を滑るタイプの崖崩れ(ボラすべり)も ・さらに最近の異常な集中豪雨が多数の崖崩れの主因に 3 地すべりと地質 ・地すべりは、専門家によって微妙に定義が異なるが、日本では、重力によって斜面が比較的ゆっくり塊となって滑る現象(マスムーブメント)とするコンセンサス ・特定地域に発生する傾向。地質(岩石の種類や地質構造)と深い関係があることがわかっている ・小出博の三分類 =(1)第三紀層地すべり 新潟・北陸等 (2)破砕帯地すべり 中央構造線・御荷鉾帯・三波川帯 (3)温泉地すべり 火山地帯 ・この分類の長所は、山地斜面で粘土が形成されやすい条件を端的に表現していること ・一方、地すべりは発生後に傷跡を残す(地すべり地形) 4 浅層崩壊と深層崩壊 ・自然状態の斜面は、土壌直下の地山は強く風化しているため、強度的には土壌と同様に見えることが多い(強風化部と呼ぶ) ・大雨や地震で強風化部の下底をすべり面にして崩落することが多く、浅層崩壊とよぶ。通常2m以下。また、「崩壊の免疫性」がある(崩れるべきものが一度落ちると、しばらく発生しない) ・深層崩壊は、もともとは2010年頃に国交省と砂防学会が行政的に使いだした用語。以前「山崩れ」「大規模崩壊」「山腹崩壊」「崩壊性地すべり」と呼んでいたもの ・現在のコンセンサスは、すべり面が強風化層(ママ。おだずま注:強風化部と同義か)より深く地山を巻き込んだ崩壊の総称 ・深層崩壊は、素因(地山の弱層、割れ目、地下水が貯まりやすいなど)と誘因(浅層崩壊に比べてより強い豪雨や地震動が必要)による。したがって、浅層崩壊より稀だが、崩壊土砂量が多いので土砂ダムを造ったり土石流が大規模化する ・他方で、深層崩壊に至る準備期間で、斜面のたわみ、頂上の尾根筋の凹みなど不安定化のサインとなる微地形(重力性斜面変形)が多数報告される 5 土砂災害関連の法律 ・主に下記4つで、それぞれの時代の災害と人間の関係を反映 (1)砂防法(明治30)=はげ山の土砂流出が問題 (2)地すべり等防止法(昭和33)=昭和32年集中豪雨で熊本、長崎、新潟の地すべり災害が契機 (3)急傾斜地法(昭和44)=郊外ニュータウンの崖崩れ、また、昭和42年集中豪雨で神戸、呉、長崎等で多くの崖崩れ ・(1)(2)(3)を土砂三法とよび、公共事業として施設を作るための法律 ・(4)土砂災害防止法(平成13)=都市計画が事実上失敗したことを受けて、リスク調査と居住規制を含む法律。ハードからソフトへの流れ 6 宅地と法律 ・宅地造成等規制法(昭和57)は、昭和36年集中豪雨で神奈川県、兵庫県の宅地造成地で多発した崖崩れに対処するもの ・しかし、(豪雨災害のみならず)1995年兵庫県南部地震以降、地震活発期にはいり、想定していなかった宅地の谷埋め盛土の地すべりが地震で多発した ・そこで、2006年(平成18、宅地耐震化元年)、谷埋め盛土地すべり災害の軽減を目的とした規制と対策を柱に、宅造法の改正が行われ、同時に宅地盛土の耐震化推進事業の創設と耐震化対象の減税措置も導入された ・しかし、これは、盛土宅地に住む住民の自己責任を公共が半分助けるという基本精神である ・では、住民に土地を売った者の責任はどうなるのか。そのため、1999年(平成11)住宅の品質確保等の促進に関する法律(品確法)が制定。瑕疵担保を10年の長期に設定(特例で20年) ・だが、地盤の不具合が明らかになるのは相当の年数経過後で、10年なら運がいい方だ 7 活断層 ・地殻には多くの割れ目があり、通常は固着するが、力が加わると固着が取れる(破壊する)。このずれた割れ目が断層で、ずれの向きで正断層、逆断層、(右左)横ずれ断層に分類される ・地下深部で地震を発生させたのを震源断層、地表までずれが到達したものを地表地震断層とよぶ ・断層のうち、過去数十万年以内に繰り返し活動しているものが活断層 ・活断層は、一定間隔で繰り返し活動し、原則として同じ向きにずれる ・これは、活動のエンジンであるプレート運動の向きや速さが過去数十万年単位ではほとんど変わらないから ・ずれの平均的な速さは断層ごとに異なり、断層の活動度の指標とされる ・活断層による地表の食い違い(変位)が繰り返され、変位の累積が記録されると、さまざまな断層変位地形となる。これら地形を手掛かりに調査した結果、現在日本では2000以上もの活断層が見つかっている ・しかし、変位地形が浸食・堆積作用で不明瞭となる場合もあり、地下に隠れている活断層も沢山あると考えられる 8 土石流のしくみ ・土石流は、斜面や河床の土砂が水と混合して流動し、谷に沿って流下する現象 ・巨大な岩や流木を含み、打撃力が大きく深刻な災害を起こす ・沢筋の土砂を削るため流れが黒く濁る。そのため「蛇抜け」とも呼ばれる ・土砂割合が高く密度が高いことから、慣性力が強く作用し直進性が顕著でなかなか停止しない。「鉄砲水」とも ・発生形態から、土石流には3つの原因 (1)渓流に堆積している砂礫が大雨で流動化 (2)斜面崩壊や地すべりの崩壊土砂が、地下水や表面水により流動化 (3)河道閉塞を起こした天然ダムが、水位上昇で決壊し土砂とともに流下 ・このうち(1)(2)が同時に起こることも。始まりは小規模な浅層崩壊でも、渓床の堆積物を取り込んで推進力と体積を増やし成長する ・土石流防止方法の代表は、コンクリート製砂防ダムだが、高コスト。そこで、土石流の底面から水だけを抜き土砂を止める対策工法(底面水抜きスクリーン)も考案されている ・しかし最も効果的な対策は、土石流の通り道である扇状地(土石流堆)に住むリスクを理解することだ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.28 23:39:33
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