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あいうえお道場/職業訓練編

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2006年11月12日
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カテゴリ:創作文
§1
マリアからどうやって3万6000円を返済させるか、仕事を終えた私は、大規模スーパーの催し物を見物しながら思案にくれていた。相手は20歳のフィリピンホステス。華奢で小柄だが、コケティッシュなルックスと物怖じしない性格があいまって、来日6ヶ月目で、すっかりこの場末の街のナンバーワンホステスになった。まだ日本語もろくに話せない小娘なのだが。

私はもちろんスケベ心半分で、別れた韓国女から預かったケータイを貸してやった。ケータイがないと営業に困るだろうと思い、話をすると二つ返事で欲しいといってきた。「通話料は払ってくれよ」とほとんど果たされそうにない約束を結ぶ私は、どこかでパトロンの気分を味わっていたのだ。もちろん、マリアにパトロンはすでにいて、それはスナック『旅情』の50代のマスターである。松山千春によく似たマスターは元ヤクザだそうで、左指の第一関節が欠けていたが、私はその事実に気がついたのは知り合って1年以上も経ってからだ。マリアはマスターの愛人となっている。それが、マスターがタイ人の奥さんと結婚して半年も経たずのことなので、近所のママ連中の風当たりはやはり強かった。当のタイ人の奥さんはどこから見ても日本人にしかみえない色白でソバージュが似合うお人形のような女の子だった。奥さんは、マスターとの結婚で一ホステスからママとなった。自分よりも先輩のホステスを小気味よく使い、嫌味なかんじは見ていてしなかった。じっさい、彼女が店で一番優秀であったからだ。ママは私が止まり木に着くと、時にはおどけて私の体にまとわりついてきた。ケラケラ笑いながら、私の首に腕を回してしがみつく。ソバージュの髪からはシャンプーの匂いがほのかに立ちのぼり、また20代半ばの生命力の強さが、私のウールのセーターを通して伝わってきた。「あのひと、いつもゴロゴロしてるの。」とママは笑いながらいう。私は水割りを口にやりつつそっけないそぶりを表向きにはしながら、ママの体温や息遣いに全神経を集中させていた。そしてふと冷静になると、カウンターの後方で冷やしトマトを切っているマスターの位置を密かに確認した。

マリアは来日して日本語をほとんど話せない頃から、自分の父親より年上のマスターのことが好きだった。マリアは実の父親を知らないのだが。マリアにマスターのどこがいいのか尋ねたことがある。彼女がいうにはマスターはいつも石鹸のいい匂いがするそうである。クルマもセルシオに乗っている。そして優
しい。この街にやってくるどの客よりもマスターがセクシーだという。

§2
私は意を決してスナック『旅情』の重たいドアを開けて中に入った。そこには開店準備をするマリアの姿もあった。マスターはいきなりづかづか入店する私に少々身構えた。私は銃を持っていたのである。正確にいえば水鉄砲を持っていた。マスターはポカンをした表情をして、次に何が起こるのかを見守っていた。私は左手には民芸品の蛇のオモチャを持っていた。先ほどのスーパーで開催されていた青森県の物産展にて、この、にょろにょろ蛇を購入していた。私はマリアを壁際に詰め寄り、水鉄砲を突きつけて「金を出せ!」といった。

他のホステスたちも神妙な顔をしていた。私は威嚇の意味で背後のJINROのビンに発砲した。放物線を描いた水は、開店前の床をぬらし、一瞬、マスターの小指の件を思い出したが、それでも私の行動に躊躇はなかった。早く金を出さなければ、マリアの大きく胸が開いたドレスに水鉄砲をお見舞いする勢いであった。マリアは声も出さず、観念した様子で、手早く財布を出して私に金を渡した。「これを置いていくぜ。」と私はいい、蛇のオモチャをカウンターに置いて、店を去った。

マスターは困った顔をして「この子たちに金を貸しちゃダメだよ。」といった。
オレもこいつらにはずいぶん困っているんだよ。

私はマリアからの金銭の返済に成功し、満足した気分だった。



※と、ここまで書いてみましたがこんなネタでも加工のし方によってアメリカンな短編小説になるもんなんでしょうか。可能性があるならチャレンジしようかなと。この話ではマリアと私、マスターの妻となったタイ人ママと私の人間模様を工夫すれば面白くなるのかな。悪人は一人も出てこないし、ドロドロした不倫物語なんかとはぜんぜん違う、さらっとしたお話にしたいのですが。このレベルじゃあ、まだまだアマチュアの趣味のレベルだ。デビューまでは遠い道のりだこりゃ。





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最終更新日  2006年11月13日 01時20分20秒
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