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カテゴリ:創作文
不二家が大変なことになっているな。じつは、昔、不二家の求人広告を作ったことがあったので、私にしてみれば、ありがたきクライアントさんなのである。
当時、私は新しい印刷会社へ入社したばかりで、コピーライター職としてどのくらいの力量なのかを社内においても示す必要があった。だから不二家というビッグネームの依頼があったときには力が入ったものだ。その会社は本社が大阪にある印刷業中心のコテコテなカラーの会社で(今は違うと思う)「ウチにもクリエイティブの部門がぜひ必要だ」という意味で設けられていた制作部門。なので、グラフィックデナイナーといっても、いわゆるコンセプトワークを理解する人はいなかった。コンセプトという言葉は、それを理解していない人ほど口にする傾向があり、私は閉口したわけだが、彼らがつくった作品を私が一刀両断(ちょっとおおげさ)に切り捨ててしまうものだから、当然、すぐ上の人から嫌われた。でもしょうがないんだよな、よくないものをよいとはいえん。 入社早々、一番若い社員がコピーライターということで、一番きつい批判をしていたので、ならばお前はどんな凄いものが作れるんだというモードになっていた。「いや、私はたいしたものは作れませんよ、ただ、そのポスターは広告としてまったくアカンのです。」というわけにもいかなかった。制作のボスは大阪の人だが、そんな新風が暴れていることを(私としては穏便に済ませたい)会社にいいと思っていたようだ。 その会社の人たちは糸井さんのような有名なコピーライターはその名前で仕事が通ると本気で考えていた。そのくらい広告制作の基本を知らずにいた。「立っているキャッチ」とか「コピーとビジュアルの結婚」といってもピンとこないのだ。それでもカレンダーのデザインをすればきれいな色のイイモンを作るデザイナーさんであった。色校には厳しかった。 そんなわけで、東京組の私より2つ年上の先輩がディレクターで、同じく東京組で最近入社したキムラ君が営業を担当し、私がコピー担当で、デザインはディレクターが懇意にしている人にお願いした。 モノはA4版24ページの入社案内であった。この仕事はコンペだった。相手は博報堂系のプロダクションで、そのときの入社案内はそこが制作していた。不二家らしいかわいらしいパンフレットであった。とにかくコンペは勝たねばならん。東京組は燃えました。だって、ほかの制作スタッフは決して応援してませんから。コケロ!くらいに思っていただろう、私と喧嘩したデザイナーは。 企画書つくりの1週間は遅くまで大変だったが、楽しくもあった。パンフレットの基本的な作りは私が考えました。24pのページネーションを考えて、それぞれのページのキャッチとリードコピー、ビジュアルのサムネイルを書いて、デザイナーともからませた。このデザイナーさんがまた、私が新人なのと、コピーライターが音頭をとるスタイルに慣れていなくて、ちょっと私も困った。エディトリアルのデザイナーさんだったので。もうキャッチコピーなど仕事の中身はすっかり忘れてしまったが、「オレのキャッチの意味、どのくらいわかってくれているかな」と不安に思った記憶がある。こんな仕事ぶりだと普通の会社では生意気だと叩かれてつぶされてしまうものなのでしょうか。R社出身の私はそのへんの按配がよくわからなかった。ただ、KO大学出身のディレクターが私を盛り上げてくれて見方になってくれた。東京組はひそかに応援してくれていたようだ。 そして、いよいよ不二家本社の会議室においてコンペのプレゼンテーション。我らはヤツラの後だった。結果は勝ち。相手さんの企画がどんなものだったのか知らないのでなんともいえませんが、どうやら最後は営業的な側面で(お金がこちらのほうが安いということで)仕事がもらえたようだった。めでたし、めでたし。 資料が少ない仕事だったと記憶している。本社の玄関を入るとまず創業者のブロンズ像がドン!と置いてあった。コピーライターたるものは、そこでその会社がどういう会社なのかピンとこなければいけないのである。思い出してきたぞ。私は不二家の創業からの伝統をデーンと出す、やや重厚なテーマにしたのだ。入社案内なのだが、読めば、不二家が日本における洋菓子カルチャーの先駆者であることがわかるようにした。博報堂のポップな作りと差別化を図った。 それでどんなパンフレットができたのか、完成品を実は私はみていない。静岡の工場に撮影に行く直前に私は退職してしまったのだ。お袋の介護のことも一要因だった。というわけで、どんなパンフになったのか、知りたいな。私が作ったパンフレットを高校や専門学校で見て、志望し。現在でも不二家で働く人がきっといるのだろう。 今回の不祥事を象徴するのは、玄関にあるブロンズ像だった。会社を改革する係りの人は、まずあれを撤去するところから始めるべきだろうが、無理だろうな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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