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カテゴリ:マリエル/後輩S
怒りながら愛する//騙しながら愛する
怒りをぶつけるにもその対象者が傍にいなければならぬ。今夜も20時の電話を待った。07分に待ちきれずにこちらからかけてしまったことについて、読者の皆さんには許してもらいたい。7分間という時間がどれほど長いものか目を閉じて計っていただだければご理解していただけると思う。マリエルは電話に出なかった。私はサッカー・日本×サウジアラビアの後半を観るとも観ないともよくわからない状態でテレビに目をやっていた。ゴールが決まり、気持ちがゲームに入り込みかかった時に、電話が鳴った。 「デキル?」できるのか、できないのか、それがマリエルの関心のすべてだった。私はどう返答していたのか、記憶があいまいだ。ひとついえることはこの件について考えることは私を疲労困憊させた。すぐにクルマを走らせて、ヤツの潜伏先まで行く。待ち合わせのセブンの駐車場で、私はいくらか声を荒立てたと思う。だが、なぜ私が立腹しているのか、ヤツには理解不能であった。 我々はどこへ向かおうとしているのか。今夜の行く先が幕張メッセなのか、ラブホテルなのか、六本木ヒルズなのか。たったそれだけの話をしても噛みあわないことが多かった。日本語の理解不足に起因する。ひとつはっきりしているのはホテルを拒否したことである。私はゆっくりと、落ちついて今後の生活のプランを話し合いたかった。実はICレコーダーをバッグに忍ばせていたのである。やつの言質をとろうとしていたのだ。盗聴ではなくて、きちんとテーブルにおいて、ふたりで現在の気持ちや今後の展望について語りたかった。21時近くになっていたが、行く先は六本木ヒルズとした。クルマ内で話をする時間が長くなるから。 箱崎のあたりで、ヤツは景色が綺麗だといった。東京でついてはほとんど知らない。前夫は車の免許を持っていなかったとのこと。昔話を聞けば聞くほど、なぜ結ばれたのかよくわからない二人だった。首都高を走らせるだけでドライブを楽しんでいる様子だった。私は、クルマを六本木くんだりまで走らせている理由を少し考えて、そしてやめた。私自身、気分を転換したい気持ちがあったようだ。 森タワーが見えると、車内は盛り上がってきた。かかっているカーラジオはあのビルの36階だかでやっていることや、報道ステーションのスタジオもそこにあること、ホリエモンがいる場所ということを説明すると「ゲイノウジンニアエルノ?」と田舎の中学生のようなことをいった。ワクワク度が増してきたわけだ。 夜間の人気の少ない六本木ヒルズは、ゲストが帰ったあとのディズニーランドのワールドバザールみたいだった。クルマはハイアットの下に停めて、けやき坂のイルミネーションまで歩く。錦糸町の夜がせいぜいのマリエルには、ちょっとした御伽噺の世界だった。ルイ・ヴィトンやヴェルサーチといったお店のショーウィンドウを穴があくほどに見つめて回った。マリエルは「トウキョウノクウキハキレイ!」と何度も空に向かって深呼吸をした。私もやってみた。けやき坂の真ん中で深呼吸をするのは、鬱病の治療にもよいようである。 レジデンスの小さな階段を上がり降りして、歩きながら、「このビルはマンションだよ」というとやつはビックリした。人が住んでいるのが信じられない様子だ。ライオンズマンションがやつの想像の限界だからだ。ちょうど、玄関から若い女が室内犬を抱いて出てきた。六本木ヒルズの住民だ。ほそっこい、まだ22~3歳くらいの女。家賃を聞かれたので、てきとうに「200万円」と答えておいた。 我々はずっと手を繋いでいた。これを記すことはけっこう重要なことかもしれない。 私は10分200円のパーキングからはなるべく早く離れたかった。高級外車がゴロゴロ止まっている駐車場は私向きではない。じっさいに4座のコンバチからIT長者らしい男と女3人が出てきたのを見て、漫画みたいだと思った。初老の紳士がスタイリッシュな女性と手を繋いで歩いているのを見れば、マリエルは「ゼッタイ、アイジンダ」と断定した。私には裕福なカップルに見えた。 私はほんらいの六本木をマリエルに見せたいと思い、ロアビル方面に向かった (つづくかも) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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