先週だったか、41歳の男が歩道橋の上から3歳の子供を放り投げる事件が起きた。可愛い盛りの男の子は重症で、父親は当然のように、過去に6回も逮捕歴があり、子供を連れまわす事件を起こしていた犯人を、自由の身にしていることを批判した。犯人に対する憎しみももちろんだが、そんな男を放置している社会の仕組みに対して怒りがあったのだと思う。マスコミは、はじめはこの犯人を匿名としていたが、次第に実名報道へと変わった。彼の知的障害の程度が軽いと考えたのであろう。いや。というよりは社会の反響が大きく、読者や視聴者が実名報道を求めていることに応えたのかもしれない。
取材を受ける福祉作業所の所長は、彼の処遇に対して、かねてより扱いかねていた様子だった。前回の事件で、かつて居住していた福祉施設は退所させられることになり、行政の調整で、その作業所で働かせてあげてほしいと頼まれたようだ。行政は一応の仕事をしていると思った。人情派「おやっさん」のような作業所の責任者は、彼のこれまでの問題行動は子供を連れまわすことで、それ以上凶悪な行為に及んだことはなく、想定外の出来事であったといったといった。これもよくわかる。彼は半年に1回くらいの頻度で子供へ近寄ってしまうようであったらしい。歩道橋の上でクッキーを販売していた彼が、突然、子供に駆け寄り下へ投げてしまうなど、予想できることではなかった。
メディアは当然、責任の所在を求めたが、結局、コメンテーターも識者もすっきりとした意見をいえる人はいなかった。
あるテレビ報道で彼の母親にインタビューしていた。彼の母は何度心中を考えたかわからない、といった。その言葉は意外と淡々とし、余計な感情の起伏をのせることすら面倒なように母にとって日常的なことであった。さて、この事件の問題の所在をどこへ求めればよいのか。どうすればこのような事件はなくなるのか。その答えは、紹介するこの本に隠されている。
犯罪しか生活の手段のない人たちが少なからず日本にいる。彼らは罪を犯して刑務所にいる。また罪を犯している認識を感じることもなくなぜじぶんが刑務所にいるのかわからぬままに刑務所人生を送っている者もいる。所内での矯正教育は我々の考えるところではない。そんな実情を、元民主党議員、山本譲司が書いた。日本の福祉の現状についてのハードパンチである。福祉に携わるすべての人に読んでほしい一冊である。『累犯障害者』、A君にもT田にもオダギリチガさんにも是非、読んでほしい。後輩Sは…、まあいいか。授乳に専念したまえ。