このところ夜になると落ち着かなくてそわそわしてしまう。早起きの生活に慣れないといけないのに。セブンに行ったところで面白くもなく、夜間営業の古本屋にいったところで収まりがつかない。多動ぎみの私は、マリエルに電話をして「おまえのお店を教えろ」といった。時刻は午前1時だ。突然の電話にヤツも背後のカラオケに負けぬ大声で「ハヤクシナイトオワッチャウヨ!」という。シトロエンを飛ばして場末のスナックへと向かった。
まる2年以上、どこのスナックにもいっていなかった。
8坪ほどの店内は、年金受給のじいさんを中心とした高齢者層で盛り上がっていた。古女房の顔から逃げるようにして出かけてきたはずである。お決まりのように『津軽海峡冬景色』が流れている。カウンター席に座ると、マスターが「こんな田舎まですみませんねえ」と自虐的にいった。雇っているホステスの“親指”のいきなりの訪問にしょうしょう戸惑っていたのかもしれない。横にマリエルが着く。「ナニニスル?」というのでウーロン茶と答えたら、マスターの顔色がさっと曇り、カウンターより離れてしまった。マリエルに叱られて(正直、すまんかった)セットのJINROがテーブルに並ぶ。ヤツにはビールを注文してやる。ここまで誰のためってお店のためであって、約束事であった。クルマで来ている私は、現在の社会事情にあって飲酒することは絶対にできない。マスターだが、そんなことで顔色を変えるようでは水商売の接客としては失格だ。これをやってしまうのは決まって男であって、女はそんな初歩的なミスはしないものだ。
目の前に置かれたお酒セットが邪魔だな。封を切る。マリエルに一杯つぐ。あとはどうするか。水時計が落ちるように定時において少しずつ酒をシンクへ流して欲しかった。ビンをさかさまにしてどぼどぼとやったらお酒の神様は怒るだろうが、交通安全の神様が絶対なのだ。
マリエルはめずらしく機嫌がよく、お互いに好きな人ができても友達でいようなどとまじめな話題を私にふった。望むところだ。「うわーい!」と伸びをして「さて、誰にしようかな」と店内のホステスを見回すというピエロな振る舞いはもちろん冗談であるが、マリエルは怒った。(すまんかった)ほかのホステスに盗られることがヤツの人生とっては一番の恥なのである。写真を嫌がるマリエルに対して盗撮したのが、この写真である。サイバショットUでストロボなしに撮っている。非常に暗い露出でありオリジナルはなんだかよくわからない写真であったが、レタッチのソフトで補正すればこのくらいの写真はできあがった。