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テーマ:仕事しごとシゴト(23735)
カテゴリ:ソーシャルなワーク
大木君はセンチメンタルな男だ。彼の担当に鈴木さんという認知症のじいさんがいる。このところ痴呆が進んで徘徊をするようになり、外で転んで怪我をしたりするようになった。そんな鈴木さんのお宅を彼は頻繁に訪問している。どのようなケアプランなのかは知らないが、大木君の鈴木さんに対する相談援助は、技術というよりも『かわいそう。ボクがなんとかしてあげる。』というある意味、傲慢なセンチメンタリズムだ。
大木君はなぜか午前中とお昼の2回、鈴木さんと接触している。体調が悪くデイサービスを休んだという鈴木さんを心配し、訪問したという。そしてお昼に外を徘徊中の鈴木さんを見つけた。鈴木さんは捨て犬と見られる子犬を抱いていたそうだ。大木君は、鈴木さんを発見し、ケアマネのクルマに鈴木さんと鈴木さんが抱いていた子犬を乗せて家に送ったらしい。その子犬が車内で便失禁したのである。 私は、夕方、そのクルマに乗った。車内は、便とリセッシュが混ざった強烈で形容のしがたい臭いが充満し、私は寒い中で運転席を全開にしながら走るしかなかった。 大木君は、この出来事をわりとさりげなくいった。「リセッシュしておきましたから。」くらいのトーンだ。ワゴンRのパーキングブレーキはベダルを足で踏むタイプだが、私の踏み方が強いと注意した彼である。彼は、けっこう些細なことで気分を害してキレそうな表情で、私に注意をすることがある。今回の出来事をもしも私が起こしてしまったら、もう土下座もんでスタッフに謝ってまわるだろう。ワゴンRはまだ新しいのだ。ところが大木君はわりあいにシレっとしている。大木君は犬の便を残して会社を去ることになる。クルマに乗るたびに耐えられぬ臭いを感じながら、今日の出来事を思い出すのだ。 このケース、いわずもがな、なぜ子犬をクルマに乗せたのかという話だ。もっといえば鈴木さんをクルマに乗せたことも少々ひっかかる。鈴木さんは散歩をしていたのではなかったのか。もちろん認知症なので、怪我をしたりクルマにひかれるリスクは普通の人よりも高いかもしれない。だが、察するに鈴木さんの痴呆は最近、始まっているので、まだ、軽度といってよいのだ。私なら話をしてそのまま立ち去ってしまうかもしれないだろう。相談援助に携わる人間の介入の距離について、大木君はまったくわかっていない。彼は介護職出身のケアマネだが、しばしばケアマネージャーでありながら利用者をクルマに乗せるという行為をしている様子なのだ。ケアマネが介護をしているのである。臭いクルマに乗った時、臭いはある程度覚悟していたが、ラジオがついていたことに少し腹が立った。 結論をいえば、大木君は相談援助の手法についてベーシックな理念の部分で大きく履き違えており、また修正する可能性がないということだ。彼が3月いっぱいで退職して、私はけっこうなことだと思った。今日の臭いについて彼に何もいわずに済んだので。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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