あいうえお道場/職業訓練編

わたしはなぜ、独身なのか。オフクロが特別養護老人ホームに長期入所することが決まった今、あらためて内省してみたい。そもそも今から14年前にオフクロが脳梗塞で倒れて、私は介護するハメになった。当時、ぼんやりと、じぶんの結婚はもうない、と悟ったものだ。それは特に悲観的な想いではなくて、今どきの女性でいきなり姑の介護をしてくれるような奇特な人はいないだろうという見通しと、さらには運よく命がつながったオフクロの世話を精一杯してやろうという前向きな想いからくるものであった。介護は楽しかったし、オフクロと私は初めて正しい親子関係を築けたような気がした。これまでの介護について、私は後悔の念はまったくない。

ただ、仕事そのものを福祉に身をおいて、低賃金重労働の中で、人生のステップアップをつかめないままに今日まで来てしまった。あれは確か95年頃だな、初めてタイ人のいるスナックに行ったのは。家と老人ホームの往復ではつまらない男に固まってしまいそうで、義務感をもって遊んでみた。そして出稼ぎホステスとの出会いは私を癒してくれた。恋もした。あの頃、「おぎーのは金銭感覚をなくした」という知人もいた。それは正しい指摘だろうが、私自身にはそれ相応の効用を感じていたので無駄金をただ使っているという心持ではなかった。私が行っていたのは一言で言えば擬似恋愛だ。本当ではないから成就しない。だけど、結婚をあきらめていた男がそれくらいの愉しみを味わったっていいじゃないかと思った。今だってそう思う。

オフクロが倒れてからなぜか日本人の女性に恋をすることがなくなって、その対象は東南アジアの水商売の女性に限られた。10年くらい経って自覚したのだが、これには明確な理由があって、彼女らなら、もしかしたらオフクロの世話を嫌がらず、また脂ぎったジジイと接しても笑顔でいられる受容力があるんじゃないかと。嫌な気もせずオレサマと結婚してくれるんじゃないかという気持ちが深層にあったのだ。ただ、当初は自覚症状がなくて、どうしてもタイ人の女をオフクロに紹介できなかったりもした。なにがブレーキだったのか。いわゆる偏見や差別の類であったといわれて、強く反論する術はなかった。

マリエルと出会って7年になるが、このグダグダの関係は、私がすっかりスナック遊びを体得してしまったことと関係があると思う。好きなホステスに入れあげ夢中になり、店に通いつめてという一連のプロセスをすっとばすようになり、別離という擬似恋愛の終了行動のきっかけを失ってしまったのだ。初心者であれば、お気に入りのコにじつは怖いお兄さんがついていて…、というところでジ・エンドとなる。が、私の場合は、小指の欠けた手でコップを持った兄さんと乾杯してしまうところがあって、カウンターの向こうの世界ともつながってしまった。これは擬似恋愛の定石ではないのだ。

私はなぜ、独身なのか。この命題と結局関係ない話を書いて終わりとなる今日の日記だ。今後もこのテーマで文章を書いてみようと思う。


※マリエル、ロト６はもうやめような！なっ、ナンバーズもなっ。時給800円で働こうな。