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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:フランス映画
男から男へと渡り歩き、すぐ捨てられてしまう人生に絶望したアデルは、セーヌ川に身を投げようとある橋の上に立っていた。そんな彼女を、ナイフ投げの曲芸師ガボールが“的”としてスカウトする。やがてふたりはツキを呼び込み、行く先々で喝采を浴びるが……。 全編モノクーム、ルコントには欠かせないユーモアと官能で、中年男の純愛がコミカルに描かれています。 ツキに見放されたアデルとナイフ投げの男の恋。 物語は、アデルが淡々とこれまでの人生を振り返って語るところから。 どんなにツイてないか、どんな男性遍歴を重ねてきたか・・・ 彼女の大きな愛らしい瞳に、その時点で釘づけ。 演じるヴァネッサ・パラディは、いまやジョニー・デップの恋人ですね。 ジョニデも恋するわけです。とってもキュート! ついに思いつめたアデルは、自殺のため橋の欄干へ。 そこでアデルを呼び止め助けたのが、ナイフ投げのしがない中年男ガボールだったのです。 助けきらずに、一緒に冬の河へ飛び込んでしまうのですが・・・(笑) ガボールの誘いに根負けして、ナイフ投げの‘的’になることを決心したアデル。 その恐ろしさといったら・・・生きた心地もしないはず。 それでもコンビを組んだ時から、互いに信頼しあって、息のあったロードムービーが始まるのでした。 アデルはとても身持ちの軽い娘。 「洋服を替えるみたいに、つい男もためしたくなっちゃうの」 そううそぶく彼女は、でも誰よりも幸せになりたいだけの、優しい娘。 あまりに素直だから、ガボールにとっては騙しやすくて、仕事に行き詰ってる彼には余計魅力的で愛しい存在になっていきます。 彼の仕事には彼女が必要。 その絶対条件のもと、彼女を手放すまいとそれなりに努めながら、旅は続いていくのですが・・・ 初めて的になった時、恐怖に震えていたアデル。 その恐怖が、いつしか快感になっていく――― それはとても官能的で、刺激的。 軽妙な会話と、アデルの幸せ探求セックスと、ナイフ投げの恐怖。 これがリズミカルに繰り返され、、微妙に変わっていくふたりの気持ちがすごく楽しい。 もしかしたら気持ちの変化に苦しんでるのは、はじめガボールだけなのかもしれません。 中年男の純愛です。 食べてく為に絶対必要な‘的’。 自殺志願の若い女性なら誰でもいいと思っていたのに、アデルの‘的’が天下一品だと気づいてしまった・・・彼の苦悩が可笑しくてしかたありません。 始めから強制はしないで、彼女のしたい通り自由に泳がせておくのだけど、誰彼構わず誘惑に乗ってしまう彼女を見ながら、ささやかに嫌味を言い始めたり、そっと引き離してみたり、邪魔したりする、ガボールの態度を見ているだけで楽しかったです。 二人の旅も、終りを告げるときがやってきて。 アデルの幸せ探しもいつしか終ります。 彼女が選んだ男と、ガボールの前を去るのです。 離れてわかる愛の深さに、ようやく気づくアデルは、果たしてまた彼に巡り会えるのでしょうか―――。 ご覧になってのお楽しみ 洋服を着替えるように、男とみるとセックスしてしまうアデルが、ガボールとは決してそうならないのがいいですね。 彼が与える快楽は、ナイフ投げの恐怖。 この関係、かなり好きです。 ある意味プラトニックに、ルコント監督らしい純愛を描いたラブストーリーでした。 ルコントさんは、主人公の中年男たちに、自身を投影しているのかもしれませんね。 これまで観てきた作品は、みな悲哀を経験します。 仕立て屋は愛する人に裏切られ、髪結いの亭主は妻に死なれ、ナイフ投げの男は愛する的を失う・・・ けれど皆、幸福そうに見えるから、見る側もハッピーになってしまいます。 そして陽気な音楽。 中年男の命がけの純愛は、決してハッピーエンドで終ると限らないけれど、心からの愛を捧げる姿に、何度観ても心動かされ踊らされるのでした。 繰り返し観たくなりそうなステキな映画でした。 監督 パトリス・ルコント 製作 クリスチャン・フェシュネール 脚本 セルジュ・フリードマン 出演 ヴァネッサ・パラディ 、ダニエル・オートゥイユ ニコラ・ドナト 、イザベル・プティ=ジャック ナターシャ・ソリニャック (モノクロ/90分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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