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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:映画
大の男が生きる上で培った確固たるものを若い娘に揺るがされる。
元々ある弱さか、ロマンチストなのか、掴み所のない存在はふとした胸の隙間に入り込むのか。深層心理はどうあれ、そうなる人ならない人がいるとすれば、わたしは前者に惹かれる。 だからだろうか、教師と生徒の恋愛を扱った作品が好きなのは。 時代的な潔癖さが漂う恋愛劇は意外にセンセーショナル。昨今の映画にはない生々しさがあった。 頼りになりそうな好男子の間崎が、あっさりと女生徒に肩入れしていく姿はくすぐったいけれど、その後待ち受ける現実は鮮烈で、怖い作品になっている。 飲み屋を経営する母の、私生児として生まれた江波恵子。男に頼ってしか生きられない母を見ながら育った彼女の、複雑な心はわかってあげられる。 「女の幸せは、男の方からしかいただけないのでしょうか...」 真剣な瞳で質問を投げかけてくる恵子の、健気な気丈さも弱さも屈託なさも深い悩みも若さも、みんなひっくるめて魅力的。 慕われればつい心を許してしまっても仕方がないとおもえる。 けれど、それにはどれほどの覚悟がいるのかを、同僚の女教師・橋本が言うように理解しきれなかった間崎。 彼の苦悩は、橋本と江波の嫉妬でさらに深くなってゆく。 一つの生涯に入らんためには 他の生涯において死ななければならない アナトール・フランス ラストの字幕、その通りの結末と言っていい。 原作とは違ってくる中盤からの、恵子の狂気と間崎の変貌ぶりについていけず、多分にがっかりして終わったはずなのに、あとからあとから湧いてくるのは、凄まじい映画だった―という好感触なのがおもしろい。 市川崑作品とはことごとく相性が良いのだ。 監督 市川崑 製作 藤本真澄 原作 石坂洋次郎 『若い人』 脚本 内村直也 和田夏十 市川崑 音楽 芥川也寸志 出演 池部良 久慈あさみ 島崎雪子 杉村春子 小沢栄 (モノクロ/114分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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