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テーマ:本日の1冊(3697)
カテゴリ:本(編集)
市川崑監督の『若い人』が良くて原作を手に取る。
石坂洋次郎作品ははじめて。『三田文学』に昭和8年から12年まで連載されていた長編。 (あらすじ) ミッション・スクールの教師・間崎と、複雑な家庭環境から屈折した態度をとる女生徒・江波恵子、間崎に好意を持つ女教師・橋本の、複雑な三角関係を描く。 橋本スミ子が左傾運動をしているあたりに時代を感じるだけで、あとは現代にも通用する、私的偏愛ジャンル。 著者が実際に教師だったこともあって、背景描写が実にリアル。時に、アブナイと感じるほど成熟した思考を覗かせたり、暴露したり、心理表現の妙にはまり込む。 飄々と生きてきたはずの間崎が、自らも知りえなかった内面と向き合っていく様は痛々しい。 良くも悪くもインテリな間崎が、男としての卑しい欲望に気づくとき、堕ちていくとき、どんなふうに壊れていくのか手に取るようにわかって、瑞々しく描いたその筆に唸るばかり。 零れ落ちる未熟さの種から芽を出すのは悲痛な思い。きっかけは、たった一人の女生徒だった。いつしか、巣食った弱さに負けていく人間らしさがいとおしい。 間崎に思いを寄せながらも素直になれない才気溢れる橋本スミ子の痛み。心病んだ率直でいて捻くれた江波恵子の痛み。みんなに魅力があり、どの苦しみもわかるから、三人ともに感情移入してしまう。 巧みな比喩表現で綴られた文章が痺れるほど良くて、何度か声に出して読み返してみるくらい好きだった。 市川崑監督の映画化では、多少ストーリーが変わっている以外、原作にかなり忠実な雰囲気となっている。映画では堅苦しくて嫌なイメージの橋本先生が、原作ではずっと素敵な人で、間崎先生と幸せになったらしい原作のラストが嬉しかった。 江波が苦しみから救われないのが、なんとも悲しい虚無感を残すけど。 野島伸司脚本でドラマになった『高校教師』は、この本の影響を受けてるような気がする。野島さんはきっとこれを読んでいる。 裸婦の絵とか、恵子のささやかな悪戯とか、複雑な家庭環境とか、ほかにもこれはと思うところが幾つか。 ものすごく好きなドラマの原点を見た気がして、なんだか勝手に嬉しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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