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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:アメリカ映画
1870年頃のアメリカ。東部クリーグラントから来た会計士ウィリアム・ブレイク(ジュニデ)は、悪漢ディッキンソンが支配する町マシーンへやってくる。その夜、酔っ払いに絡まれた花売りの娘セルを助けた彼は、彼女の部屋に誘われ甘い夜を過ごした。 しかし翌朝、ディッキンソンの息子で、セルの元許婚チャーリーが突如現れ、ブレイクに銃口を向ける!彼を庇ったセルは死に、撃ち合いでチャーリーも死に、ブレイクの心臓脇には弾がめりこむのだった―――。 『ナイト・オン・ザ・プラネット』から4年後のジャームッシュ作品。 全編モノクーム。乾いた大地に乾いた映像が、やはりシュール。彼らしいセンスのよさがキラリ光ります。 確実に死へと向っていく男の哀愁と、雄大な自然の神秘、捨て鉢の取り留めなさ。 イカレ気味の主人公ブレイクは、ジョニデが演じることで、いつもながら愛すべき好人物となる。少しのユーモア、人間味。主人公を魅力的にしてしまう技こそが、人気スター、ジョーニー・デップの凄さですね~ ウィリアム・ブレイクWilliam Blake(1757~1827)という人物は、実在したイギリスの画家・詩人で、沢山のミュージシャンや映画が、影響を受けているようです。 本作『デッドマン』はウィリアム・ブレイクへのオマージュ的作品。 詩人ブレイクは、白人文化や正統派のキリスト教制度などを批判していたというから、現代の向きに合う、先駆者といえそう。権威主義や西洋思想を批判し、狂人扱いされた人です。 そんな異端児であり敬愛する詩人への思いを、ジャームッシュが同姓同名の主人公に込めて、白人主義やキリスト教云々について、辛辣に綴った作品でした。 心臓の脇に鉛弾という爆弾を抱え、今にも死にそうなブレイクを発見し介抱したのはインディアンの大男ノーボディでした。 (演じているのは『スモーク・シグナルズ』のゲイリー・ファーマー) 孤高のインディアン・ノーボディは、まさしく名の通り、荒野でたったひとり部族から離れ生きている男。 彼には幼い時分に、西洋人に連れ去られ見世物にされた過去があります。辛い時いつも読んでいた本の詩人ウィリアム・ブレイクの叡智ある言葉に希望を見出し、やがて脱走に成功して、今の自由を勝ち取ったノーボティ。 そんな彼が奇妙な死に損ないブレイクを助けたのは、本物の詩人ブレイクだと勘違いしたから。親切に介抱して、やがてふたりは、気の知れた仲になっていきます。 しかし、息子を殺されたディッキンソンが3人の殺し屋を雇い、ブレイクは懸賞金つきのお尋ね者となってしまうのです―――。 殺し屋役にはランス・ヘンリクセン、マイケル・ウィンコット、ユージン・バードという、錚々たる顔ぶれ。いつもながらキャスティングが豪華で、ジャームッシュ氏の顔の広さが窺われます。 3人の残虐な殺し屋の面々が、個性を発揮して物語に起伏を与えつつ、賞金稼ぎたちの幾多の顔も面白い。 逃げるブレイクもノーボディも、何気に無欲で生への固執がありません。 それは、自然と共に暮らし、魂の存在を信じる、インディアンの暮らしと同じ。 彷徨ううちにそうなった・・・とにかく確実に死へ向っていることは間違いありません。 死期を悟った人間が諦めの果てに辿り着く淵。 次第に少しずつその淵へと近づいてゆくのを感じる、場末のマシーンへと向う奇妙な汽車の旅で始まる導入部が素晴らしかったです。 お尋ね者である我が身を嘆くでもなく、いつしか、悪人ばかりの白人を片っ端から殺し始める、ブレイクの変化が絶妙に描かれていました。 はじめから、インディアンに偏見を持たなかった彼は、まるで神のように罪人を裁きます。ただその存在は場違い極まりなくて、ひとり浮いたまま。 人間離れした存在は、あるべき場所へと還らなければならず、それが死以外にはないのです。 今にも消え入りそうな命の火をチロチロ燃やしながら、死に場所へと向っているだけなのが、とても切ない。 数あるDead Endのなかで、本作はかなり見事なほうに入るのではないでしょうか。 好んでは観ない西部劇ですが、相性のいいジャームッシュ作品ということもあって、大満足な作品でありました。 監督・脚本 ジム・ジャームッシュ 製作 デメトラ・J・マクブライド 撮影 ロビー・ミューラー 音楽 ニール・ヤング 出演 ジョニー・デップ ロバート・ミッチャム ミリー・アヴィタル ゲイリー・ファーマー ランス・ヘンリクセン マイケル・ウィンコット ユージン・バード ジョン・ハート ガブリエル・バーン アルフレッド・モリナ クリスピン・グローヴァー イギー・ポップ (モノクロ/121分/アメリカ/DEAD MAN) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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