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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:映画
『ヘヴン』が素晴らしかったトム・ティクヴァ監督の新作。長尺ながらがらとてもおもしろかった。 (あらすじ) 18世紀のパリ。悪臭立ちこめる魚市場でグルヌイユ(ウィショー)は産み捨てられた。一命を取りとめ少年となった彼には生まれつきの能力、類稀なる嗅覚が育つ。やがて青年となり、出会う運命の香り。それは赤毛の少女の体から匂い立つもの。えもいわれぬ少女の香りをどうにかして捉え永遠に留めておきたいと思った彼は、香水調合師バルディーニ(ホフマン)に弟子入りするのだが― 当時のパリは世界の何処よりも臭かったという。かのベルサイユ宮殿でさえ、部屋や風向きによっては糞尿の臭いでいっぱいだったそうだ。 そんなパリでも強烈な悪臭を放つ魚市場で、ジャン=バティスト・グルヌイユは産み堕ちた。蛆の湧く生ゴミの中に捨てられるも生き延びて、孤児院に入れられた彼は、友達もいない孤独な青年に成長する。 そんなグルヌイユには生まれつきの能力があった。それは何キロも先の臭いさえ嗅ぎ分ける、ずば抜けて優れた嗅覚だった。 いままでに観たことのない匂いをテーマにした物語。匂いを映像で表現することが真新しく、流石ティクヴァ監督はソツがなくて、魔法にかかったように物語りに引き込まれていった。 孤独で愛を知らず、およそ人間らしくないグルヌイユが、運命の匂いに出会ってしまった時から悪夢は始まる。 革なめしの工場に売られてからも、人間らしさを学んでいない彼は、言葉さえまともに話せない、まるで子どものようだ。意思に素直で、欲しいものがあればどうしてでも手に入れたいし残酷。 しかし無垢であっても、匂いに関しては誰よりも成熟した男で、もしも匂いだけの世界があるなら、彼は王様にも神にもなれるかもしれない。 ある時、生まれて初めて外の世界を知った日、ついに運命を揺るがす匂いに出合う。それは美しい少女から発せられた匂い。少女を殺めてまで手にしたその匂いを永遠のものとしたくて、いつしか香水調合師となったグルヌイユの運命は、伝説の香水を求め、やがて殺人を繰り返すまでになるのだった。 彼の運命は、冒頭シーンで死あるのみとわかっている。なぜ残酷な処罰を受けるに至ったかを回想形式で綴る。一応サスペンスということになるけど、そんな単純なスリルを味わうだけの映画ではなかった。人間性の欠如が引き起こす悲劇、匂いの魔法、究極の死。鼻が利くばっかりに性フェロモンに心酔した哀れな男と見るか、匂いの世界で生きて絶頂の果てにまるで腹上死した幸福な男と見るか、どちらにしても壮絶な内容。 究極の死と書いたけれど、ティクヴァ監督は『ヘヴン』にしろ、カッコいい終わらせ方がうまい。ただ誰にとっても究極と感じるかは難しくて、『ヘブン』のカタルシスに比べてこちらは突飛だった。 物議を醸したらしいスクリーンいっぱいヌードで埋め尽くされたシーンあたりからどうしても冷めてしまう。 原作どおりならば仕方がないのだ。 主演のベン・ウィショーは素晴らしい! 初めてのものに触れるシーンで、彼の表情はなによりも雄弁に語ってくれたし、嗅ぐシ-ンの数々は見えない匂いに、色っぽさも動悸も加味されて、すごい映像だった。まだ代表作はないけど、きっとこれがそうなる予感がする。 ドイツ=フランス=スペインの合作、舞台はパリ、言語は英語。そのおかげというべきか、ダスティン・ホフマンやアラン・リックマンといった名優が出演しているのがうれしい。 監督 トム・ティクヴァ 原作 パトリック・ジュースキント 『香水 ある人殺しの物語』 脚本 トム・ティクヴァ アンドリュー・バーキン ベルント・アイヒンガー 撮影 フランク・グリーベ 音楽 トム・ティクヴァ ジョニー・クリメック ラインホルト・ハイル ナレーション ジョン・ハート 出演 ベン・ウィショー ダスティン・ホフマン アラン・リックマン レイチェル・ハード=ウッド (カラー/147分/ドイツ=フランス=スペイン) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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