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行きかふ人も又

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2009.02.17
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カテゴリ:映画
 
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 マネキンに“菜穂子”と名前をつけて、殺した女の肉片を中に詰める孤独な青年・誠、近親 相姦の兄弟・・・。“菜穂子”によって導かれた男女に、残酷な運命が待ち受ける―――。


 アネモネさんにおすすめ?していただいた作品。カルト・ムービーゆえ、体調がよくない方にはおすすめできません。
80年代にはこんな衝撃な作品があったこと、改めて面白いと思う。
製作から20年、いまの映画にちょっとだけ疑問を感じた。
古い映画を観ると、「現在ではふさわしくない言語ですが、本編のオリジナリティを尊重してそのままで放映します」というような字幕をたびたび観ることがある。
それは今では使ってはいけなくなった差別用語で、たしかにいけない言葉ではあるけれど、使えなくなってからの映画は、おのずと軟くなりエグ味も頭を殴られるような衝撃も存在しなくなってしまったような気がする。
もうこんな映画は生れてこないんだという寂寥感・・。
1980年代にはまだ残っていた、そんな懐かしい意味でも、見る価値のある作品だと思った。

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“菜穂子”と名づけたマネキンを偏愛し、若い女性を殺しては切り取った生殖器を“菜穂子”の中に詰め込んでいる青年・誠。
彼は廃墟の屋上に住み、孤独で人でなしだが、寄せる愛だけは誠実だった。
ある時“菜穂子”が妊娠し、新しい家族のために働こうと決心した誠は、小人症の兄妹が経営している下水道清掃の職に就く。
その頃、同じ街で、近親 相姦の幼い兄妹ふたりは純粋に寄り添っていたが・・・。

「カラスになるくらいなら、真っ白いハトでいたい」
街ゆく女子高生は言う。
この映画の人々は、愛はあっても欲望に負け真っ黒なカラスになってしまうのだけれど、果たして一生真っ白なハトでいることが正しいのか、それがわからない。
たしかに、彼らのような堕ちる姿をみてしまえばカラスになるのは嫌だけど、目くらめっぽうに欲望に突き進む行為は本能的な望みでもある。ただ理性が歯止めとなっているだけ。

愛のためには人殺しもいとわない誠。
体の醜い痣と、成熟しても体は幼児のままであることを嫌悪する小人症の妹、そしてその兄。
性欲を捨てきれない浮浪者。
純粋に寄り添う幼い兄妹たち。
愛によって生命を得た“菜穂子”に引き合わされ、誰もが欲望に憑り付かれ、残酷でむごい結末へとひた走る。
唯一、ほんとうに美しかった兄妹さえ、導かれるようにして誠のねぐらに辿り着いた時、兄の欲望が目ざめ悲劇を迎えてしまう―――。

兄妹を描いたシーンは本当に美しくて、少女の純白なイメージが、少なからず過酷な鑑賞を助けてくれた。
過激な描写ばかりのなかで、これだけ美しく純粋なものを配置できるのは、審美に長けた監督さんならではのはず。マネキンの美しさもまた、対照としてとてもいい。


これがモノクロ映画で本当に良かったと思う。
カラーだったらと、想像しただけで身の毛もよだつから。
監督がモノクロを選ぶのには、いろんな理由があるのだろうけれど、本作では過剰な刺激を避けるためにそうしたのでは?―なんて思えてくる。
映像美が際立つことも、モノトーンならではだ。
物乞いの負傷兵や、路地裏の猥雑さが、時代背景を曖昧にしているのは、幻想譚ならでは。
幾度も登場する日立の広告塔が懐かしい感じで印象的だった。


リバイバル上映時の解説。
時代が映画においついた、究極のハードコア・ファンタジー




監督・脚本 /松井良彦
製作 /安岡卓治
音楽 /菅沼重雄
出演 /佐野和宏  隅井士門  村田友紀子  大須賀勇

(モノクロ/150分)







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Last updated  2015.03.04 22:10:37
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