|
テーマ:■オンラインレンタル■(148)
カテゴリ:フランス映画
瑞々しくて、情感たっぷりな素敵な作品。 サイゴンを舞台に、ある資産家の家に奉公人としてやってきた10歳の少女ムイ。 彼女の目に映る一家の暮らしぶりと、柔らかな視線に止まる生き物や自然を、詩情豊かに綴った、言葉少なな物語。 優しい女主人と根無し草の旦那さん、三人の息子たち、そして孫娘を失って以来二階にこもりっきりのお婆さん。 そんな、どこか壊れた資産家の家庭で忙しく働くムイは、それでもまっすぐな心と、優しい眼差しを絶やさない少女でした。 彼女だけが気づいている、自然界に息づく生命の神秘や、刹那の美。それらがいずれ、彼女を幸福にしていくまで―――。 丁寧に静かに、時に激しく、ベトナム様式の邸で繰り広げられる日常のドラマは、鮮やかな色彩と光がとても印象的。 ほぼ室内で繰り広げられるとはいえ、開放された空間は驚くほどの広がりを生んでいました。 建築や、室内装飾や文様が、すでに芸術といっても過言ではなく、そこに目に沁みるような自然界の美しさが加味されると、えも言われぬ美の世界が生れてくるのでしょう。 カメラドール受賞作に、なっとく。 耳には虫の声、鳥のさえずり。まるでサイゴンにいるかのような暑い臨場感。 少女時代のムイを演じたクエン・チー・タン・トゥラは、ハッとするほど魅力的で、純粋無垢な魂は、自然と対話しながら生きています。 彼女が純粋であればあるほど、幸福は近く、無欲で慎ましやかな暮らしは、彼女を確実に美しい女性へと成長させていきます。 やがて10年後、若きピアニストの使用人となっていた彼女のもとに、身分を越えた幸せが静かに突然に訪れる、、それは約束されていたことのように―――。 本編撮影後にユン監督の妻となったトラン・ヌー・イェン・ケーが、大人になったムイを演じています。 彼女は『シクロ』でもユン監督作品に登場していましたね。 美しく奔放なピアニストの婚約者が、ちっとも魅力に映らないほど、ムイという女性は素敵でした。 心の景色の違いが、ふたりの女性の運命を分けていく感じがいい。 ハッとするような映像には、奉公先一家の崩壊や、蟻を殺す残酷なシーンも含まれています。 そして何より、パパイヤを半分に割ると現れる白い種が、筆舌に尽くしがたいほど官能的なのでした。 見終えたとき、ベルトルッチの『シャンドライの恋』を思い出しました。 ピアニスト、使用人、そして寡黙さが似ています。 シャンドライはイタリアが舞台でしたが。どちらも好きな作品です。 監督・脚本 トラン・アン・ユン 撮影 ブノワ・ドゥローム 音楽 トン=ツァ・ティエ 出演 トラン・ヌー・イェン・ケー リュ・マン・サン グエン・アン・ホア クエン・チー・タン・トゥラ (カラー/104分/フランス=ベトナム合作) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[フランス映画] カテゴリの最新記事
|