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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:映画
もっとも敬愛する監督のひとり、トム・ティクヴァによる初期の長編。キェシロフスキの遺稿『ヘヴン』では、運命を感じさせる演出が見事だったけれど、本作でもキーワードとなるのは、やはり運命でした。 祖母からの遺産である広い家に、友人のレベッカと暮らすローラ。ある夜、レベッカに会いに来ていた恋人マルコの車を、通りがかりの記憶障害の男レネが、酔ったうえの遊び心で乗り逃げしてしまう。しかし、途中で小型トラックと衝突事故を起こしてしまい、やがて意識を取り戻したレネは、事故の記憶を忘れてそのまま帰宅してしまうのだった……。 酔いと出来心から自動車を盗んで、レネはローラたちと繋がり、たまたま父親の運転する小型トラックにこっそり乗り込んでいた娘は、事故で昏睡状態になる。昏睡状態の少女は、看護師であるローラと繋がり、偶然がいくつも重なって、関係は生まれ運命は回り出す。 映画の中心となるのは、対照的なローラとレベッカの恋愛。中盤で結ばれるローラとレネは、理性的でなんでも語りあうカップル。一方、レベッカとマルコは、感情的で喧嘩が絶えず、肉体的結びつきの強いカップル。 かたや精神、かたや肉体で繋がっている、二組の相反する男女の運命は、自然の働きによって自ずと幸不幸が導き出されていくのだからおもしろい。 事故で娘が昏睡状態となった家族も、もうひとつの運命の物語をもつ。父親は、現場から消えた男を執念深く探すけれど、警察は単独事故だと信じて疑わない。それもそのはず、レネが運転していた車は路肩の雪に隠されていた。気が狂ったと囁かれ、事故のせいで破産してなにもかも失っても、父親は執念の捜索を続けて、ついに探し当てた事故車の持ち主は、もちろんマルコ...復讐は、当然マルコの元に下されてしまう...! 少女の命が決定させられる終盤。希望どおりの未来へと真実は捻じ曲げられて物語は幕を閉じた。それは予想だにしていなかった、後味の良さで。 「ヘヴン」の究極の愛を希薄したようなローラとレネの愛に注目。ふたりの間で交わされる、連想ゲームのような理知的会話が魅力的。 人物ごとにはイメージカラーがあって、ローラの緑、レベッカの赤、マルコの青、レネの黒と、クリスマス時期の舞台はさらにカラフル。 すでに、のちのティクヴァ作品の片鱗は窺えるものの、やや長く無駄がないとはいえないけれど、見応えのあるサスペンスの小品でした。恋愛もの、人間ドラマとして観るとより楽しめそう。 (122min /出演 ウルリッヒ・マティス、マリー・ルー・セレン、フロリアン・ダニエル、ハイノ・フェルヒ、他) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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