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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:映画
愛のない生活と介護に疲れ、自分を解放することなく抑圧だらけの人生を歩んできたマリアが、壊れながらも新しく生まれ変わっていく姿を描く―――。回想シーンを織り交ぜて綴られたサスペンスです。 主人公マリアは、聖母マリアに掛けられた名前。彼女を生んだ後、母親はすぐに亡くなり、父親とふたりきりで育った家に、今は寝たきりとなった父と、型物の夫との三人で暮らしています。 人間生まれ変わるには、死ぬほどの苦しみが必要だというけれど、まさしくその苦しみが描かれていく。 デビュー作にして、この視点。20代でこの原案を思いつき映画にしようと考えたティクヴァ監督は、やはりすごい人だと思えてしょうがないです。 疲れ切った生活の中で、窓から見える隣の男と見つめ合うようになるマリアは、男に救いを見出し、誘われるまま男の家を訪れるのです。 そこは趣味で集められた膨大な書物に囲まれた異空間で、マリアにとってはなにもかもが新しい。 (私的にはこの部屋、ヘンリー・ダーガーを思い出しニンマリでした) 戸惑いながらも言葉を交わすうち、マリアは生まれて初めて、自分の人生を第三者の目から確認するのです。慄いたマリアは男の家を飛び出し、衝動的に自宅の戸棚を壊します―――! そこには、子どものころから時々、大切な人形へ宛て認めた手紙が、無数に隠されていました。 繰り返し、繰り返し・・・何十年にも渡って綴られてきた何百通にも及ぶ思い。時を経て開封してみるマリアには、忘れていた少女のころの思い出や痛みが蘇ります。 それは解放とアイデンティティを求めて、大きな変化を遂げていく序章の始まりなのでした―――。 マリアのように生きるなんて、同じ女としては辛すぎる、、。 変わり始めたマリアのことを、だから心底応援してしまうけれど、簡単になにもかも上手くいくはずはありません。 抑圧された時は長すぎて、変わる為の犠牲があまりにも大きいのです。悲劇は必然で、ティクヴァ監督らしいグロイシーンを交えつつ、新しい恋との狭間で壊れていくマリアは怖い、、、。 やはりキエシロフスキ作品に似た雰囲気があります。真似ではなく視点や描き方が。 まるで『デカローグ』の長い一篇を観ているかのようでした。時間を忘れるほど集中しました。 アンナと隣家の男が惹かれあう様は魅力。後の作品でも、ティクヴァ監督が描く男女はいつも素敵です。 恋の相手となる男性を演じる役者の雰囲気が、どことなく毎回似ているのは、監督が自身のシャドーを投影したりしているのかしら。 写真(下右)でアンナが持っているのは、幼いころ伯母さんに貰った大切なお人形。 孤独な彼女にとっては、友達代わりであり、愚痴を聞いてくれる相手でした。まるで命を吹き込まれたかのように、アンナと一心同体していく様が見事です。 幻覚に苦しみながら突如彼女が産み落としたのは、紛れもなく新しい自分自身にほかありません。 その時の人形の在り方が、とてもいいのです。そのフォルムも。 劇的な最後、希望を失わせない絶妙なニュアンスのラストに、ホッとしました。 男がしっかりとマリアを抱きとめてくれて良かった。 監督/ トム・ティクヴァ 製作/ シュテファン・アルント トム・ティクヴァ 脚本/ トム・ティクヴァ クリスティアーヌ・ヴォス 撮影/ フランク・グリーベ 音楽/ クラウス・ガーターニヒ トム・ティクヴァ 出演/ ニナ・ペトリ カーチャ・シュトゥット ヨーゼフ・ビアビヒラー ペーター・フランケ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.11.06 20:54:56
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