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行きかふ人も又

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2009.11.14
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カテゴリ:映画
 むずかしいことは分からないけれど、また嬉しくて小躍りしたくなるような作品に出会う。
どこまでも、ある種の陽気な音楽が付きまとい、聖であり、俗っぽい。
目を覆いたくなるような場面さえ、そこに真理がある気がして目を逸らせない。

ホドロフスキー監督が、はじめて観客の為に撮ったという本作は、『ホーリー・マウンテン』よりずっとわかりやすく、愛おしい大好きな一本になりました。


 (あらすじ) 繊細で感受性豊かな少年フェニックスは、サーカスの団長オルゴと、ブランコ乗りコンチャの間に生まれ、“刺青女”の養女アルマに、ほのかな思慕を抱いている。
ある日、狂信的な宗教家である母コンチャは、夫の浮気現場を発見し、狂ったように硫酸を浴びせるが、これに激怒した夫は彼女の両腕を切断し、自らも喉をかっ切って死ぬ。
一部始終を目撃していたフェニックスは、ショックの余り精神を病んで施設に収容されてしまう・・・。
数年後、成長し青年となった彼は、病んだ精神を母の狂気に操られて、女すべてへの復讐を殺人として繰り返すようになるのだが―――。

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少年期と青年期のフェニックスを演じるのは、ホドロフスキーの実の息子たち。
文句の付けどころのない演技は、血なのか、素晴らしい!
とくに青年期を演じるアクセル・ホドロフスキーの魅力は抜群だ。手元にあるコラムニストさんの解説が、言い得て妙なのでひとつ。

狂気とエレガンスを見事に体現している。

これほどグロテスクな作品なのに、驚くほどエレガンスな主人公なのだ。
両手を失った狂信的な母親に操られ、生贄のようになりながらも、そこから逃れるべくもがく、精神の戦いを描く。

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たしかに血みどろで、エロティックで、おぞましいけれど、そこにこそ真の人間の姿がある、と私は思う。いつまでも廃れてほしくない。

純粋なフェニックスを操る母親の姿は、ものすごい。欧米人が母性を描くと、えてしてこうなるのか、、。≪両腕のない聖なる血を流す少女像≫を狂信する母。自らがその少女と同じ姿になってしまうあたり、預言めいていて恐ろしい。
ホドロフスキー監督は、『ホーリー・マウンテン』で父性イエスを、『サンタ・サングレ』で母性マリアを描いていたのかもしれない。

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豪勢に遊んで、凝った映像を惜しみなく振り撒き、中身も素晴らしいとなったら、文句の付けどころなし。最後に、先ほどのコラムニストさんの一言をもう一度拝借すると。

血みどろ血まみれの中から、ちゃんと、心のダイヤモンドを探し当てている―――

こんなおぞまし映画なのに、ラストではとてもあったかく切ない気持ちになって、人間賛歌であったことを思い知らされる傑作。
なんといっても、少年の頃から、互いに慕いあったアルマとの関係が珠玉。
両親が引き起こした惨事で精神を病み、母親の両手として洗脳され動くうちに、己を見失ったフェニックスは、変わらない純真なアルマに再会し、自分自身を取り戻していく―――その終盤が素晴らしい。あまりにステキな二人の関係が、血や狂気と並んであることが尊い。
聖も俗も限りなく近くにあることを思い知らされる。


●  ●  ●  ●


監督/ アレハンドロ・ホドロフスキー
脚本/ アレハンドロ・ホドロフスキー  ロベルト・レオーニ  クラウディオ・アルジェント
撮影/ ダニエル・ナンヌッツィ
音楽/ サイモン・ボスウェル
出演/ アクセル・ホドロフスキー  ブランカ・グエッラ  ガイ・ストックウェル 
 サブリナ・デニソン  セルマ・ティゾー

(カラー/122分)







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Last updated  2014.01.07 21:13:51
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