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行きかふ人も又

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2010.08.29
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テーマ:読書(8605)
カテゴリ:映画
 はじめてのいしいしんじ作品。
すごく、おもしろかった。
曖昧で、やさしくて、滑稽で、あったかい。
人生の真実が背筋を伸ばしてちゃんとあり、あらゆる音に満たされている。

音楽家を目指した少年が経験する、デタラメだけれど温かい、人生賛歌の成長物語。
数学教師の父と、ティンパニストの祖父と、3人で暮らすぼく。
みんなは祖父の真似をして、ぼくのことをねこと呼ぶ。

おじいちゃんが束ねる街の音楽隊、港町をおそった災難、用務員さんの事故死、「ねずみ男」の最期・・・・・
ゆっくりと時間軸が前後して、さまざまなことが起こる。
つらいことも、嬉しいことも、とびきりおかしなことも、愛おしい出来事も。
出会った人々や事件をとおして、ぼくは成長していく。




 普段、当たり前のように感受している、音や色を、無性に愛おしくなる本だった。
人ごみの喧しさも、色の氾濫も、うちゃっておくにはもったいないほど大切なものに思えて、読んでいる間じゅう、いつもより五感を研いでいた気がする。

登場人物は、みんなが魅力的な変人で、しかもなにかしらビョーキ。
背骨の湾曲したひと、盲目のひと、‘ねこ’は体の大きくなりすぎるビョーキだし、数学者の父は心の病だったと思う。
だれもがビョーキ持ちなんだけれど、それぞれの歴史が滲む人生は、誰ひとりとして捨てておけないいいものなのだった。おかしすぎる言動もこころをくすぐる。

私的に好きだったのは、チェロの先生と、その娘のみどり色と、ボクサーのおじさん。
茶色いもやもやのつなぎを着たチェロの先生に、ぼくがはじめて弟子入りした日。初対面の先生の台詞がいい。

「さあ、やれよ」
「部屋をかたづけてくれよ」
「床もふけよな」
「そうだな」
「それはすごいな」

一読すると・・・ものすごく可笑しなメチャクチャ会話なのに、そのうち潔いこの人の生き様に打たれてしまう。そういったことの繰り返し。だれもが魅力的なのだ。
みどり色という名の女の子とぼくは、ゆくゆく恋人同士になるのだろう。ふたりの関係もまたたのしい。
清々しく潔く生きる、浪漫がいっぱいに広がる。



ぼくにしかきこえない、かわいたクーツェの声。あれは、いったいなんだったのだろう。麦ふみの音は。
無表情なそれは、もしかしたら、父と同じように心を病んでいた、ぼくの幻聴だったのかもしれない。
出会いと成長と共に、ぼくは治って、たしかな幸せのを聴いた。
読後感の爽やかな幸福さが、とてもいい。


人生のでたらめな悲喜劇を、真実の音がつらぬく―――― 「BOOK」データベースより 







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Last updated  2015.02.20 20:53:51
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