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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:アメリカ映画
ファッション界を代表するデザイナー、トム・フォードによる初監督作品。 ブランドものには興味がないので、まったくというほど氏に対する世間の評価はわからないけれども、映画の出来不出来をいえば、なかなか見事でコンパクトにまとめられた良作だと思う。 審美眼があるというのは、それだけで武器なのだ。 シーンごとに、こだわりを感じる絵になるショットがあり、そこにドラマがあり、自身も同性愛者であるというトム・フォードの、真摯な想いが表れているようだった。 1962年、ロサンゼルス。大学教授のジョージは、16年間共に暮らしたパートナー、ジムを交通事故でなくして以来、8ヶ月も悲嘆に暮れていた。そして今日、その悲しみを断ち切り、人生に終止符を打とうと決意する―――。 人生最期の日、それはきっと、なにもかもが特別に映るにちがいない。 ジョージのように、終わりにしたいと絶えず願っていたとしても、人生はきっと、いざとなれば愛おしく去りがたい。 身の回りを整理して、最期を迎える準備を整えたジョージが、かつての恋人チャーリー(ムーア)に会いにいく件がとても印象深かった。すでに女性を愛することはできないけれど、いまでは大切な親友となったチャーリーと、共に重ねる会話やダンスや思い出話が、かけがえないひと時を紡いでいく。 そして、帰宅したジョージがいよいよ死の準備を終えるころ、以前から気にかけていた教え子ケニー(ホルト)が、突然彼を訪ねて来るのだった。 思惑どおりに死ねないジョージの戸惑いと、生への執着を体現するのは、教え子ケニーの若々しい生命力や、その肉体。否応なしにケニーに惹かれていく自分と、死ぬ決意をしていたはずの自分が葛藤する様を、イギリスの名優コリン・ファースが見事に演じている。 かつての恋人チャーリーを演じるジュリアン・ムーアもまた、存在感素晴らしく、本編に魅力を加味していく。 人生の終わりを自覚した者にとって、きっと世界そのものが素晴らしい。どんな喪失感を味わっていても、いま生きて見つめている景色は無二のものなのだ。死ねば意味をなさなくなるのが世界。 それに気が付いてから死んでいったジョージは、幸せといえるのではないだろうか。自殺よりも、よほど幸せな最期であったろう。 生きていることこそ素晴らしい!そんな人生賛歌だと信じたい、奇麗に纏められた小品。トム・フォード氏自身の人生観を感じる、処女作とは思えない巧みな良作だった。 監督/ トム・フォード 製作/ トム・フォード アンドリュー・ミアノ ロバート・サレルノ クリス・ワイツ 原作/ クリストファー・イシャーウッド 脚本/ トム・フォード デヴィッド・スケアス 撮影/ エドゥアルド・グラウ 音楽/ アベル・コジェニオウスキ 出演/ コリン・ファース ジュリアン・ムーア マシュー・グード ニコラス・ホルト (カラー/101分/A SINGLE MAN) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.10.24 23:01:53
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