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2010.10.30
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カテゴリ:フランス映画

 多言語を操るという、イタリアのアントニオ・タブッキによる原作に魅了されて、映像化されたものを手にとってみた。 
タブッキの作品は多くフランス語に翻訳されていて、映画もフランス製作によるもの。

訳者によると、これまでイタリア語では表現されることのなかった思考回路――であるという。

詩的で浮遊感のある哲学を含んだ内容は、まさにフランス人好みな感じ。
インドに憧れを抱いた当初、胸の中で思い描いて求めていたイメージは、ここにある。掴みどころのない混沌とした国、心を捉えて離さない国。そして、今、インドを旅したあとも、おなじニュアンスを感じて旅したと断言できる。
小説の書かれた1984年から年月は流れていても、変わらないインドの原風景と呼べるものが、ここにはあるような気がする。

まるで夢のなかを浮遊しているような不思議な世界観がすばらしい。ミステリアスで混沌とした国でこそ、業に囚われた人間の出会いと別れが輝く。

哲学的な言葉の連なり、幻想的な夜の重なり。娼館、病院、神智学会を経て、友人を探す旅はいつしか自己を求める旅へと変化していく―――。

幾日目かの夜。マドラス(チェンナイ)のマンガロールのバス停で、占い師である奇形の青年と出会うシーンが好きだ。(映画では娘さんになっていた)
主人公は、自分のカルマについて訊ね、それに対し青年は「あなたは魂の抜け殻、ほんとうのあなたは別の場所にいる」と応える。彼は戸惑いながらも、言葉を受け入れ、占い師に礼をいって旅をつづける。
旅の最終到達地となるのはゴア。そこで彼は、やっとのことで失われたアートマンと出会うことができるのだ。ミステリアスな出会いの数々が導いた影と光の接近は、演出の妙によってさりげなく、美しい幕切れが消えない余韻を残していく。


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  夜熟睡しない人間は多かれ少なかれ罪を犯している。
  彼らはなにをするのか。夜を現存させているのだ。      モリス・ブランジョ



 原作の冒頭にある言葉が、忘れがたく魅力。全編をとおして何度も流れる音楽は、シューベルトの弦楽五重奏曲 第2楽章。インドの夜想曲としてしっくりと沁みる。


†   †   †



失踪した友人を探して、インド各地を旅する主人公の前に現れる、幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで、息のつまりそうな夜の病院。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年―――。
イタリア文学の鬼才が描く、内面の旅行記とも言うべきミステリー仕立ての12の夜の物語。
(「BOOK」データベースより) 
 


   監督  アラン・コルノー
   製作  モーリス・ベルナール
   原作  アントニオ・タブッキ
   脚本  アラン・コルノー  ルイ・ガルデル
   撮影  イヴ・アンジェロ
   音楽  フランツ・シューベルト
   出演  ジャン=ユーグ・アングラード  クレマンティーヌ・セラリエ  オットー・タウシグ

     (カラー/110分)







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Last updated  2010.11.02 00:05:03
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