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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:映画
敬愛する名匠アンジェイ・ワイダのひさしぶりの監督作は、ぜひ観ておきたかった。 ワイダ作品とのはじめての出会いは、十代のころの『灰とダイヤモンド』だった。独特なポーランド映画の雰囲気が気にいって以来ずっと好きだ。 80の大台に乗ったワイダの、人生の集大成ともいえる本作は、祖国ポーランドを見つめ続けてきたからこその重みを湛えている。 カティンの森事件。この事件をわたしは知らなかった。 1939年、ナチスドイツとソ連に分割占領されていたポーランドでは、一万人以上の将校が捕虜となり収容所へと送られた。生きて戻らなかった彼らは、ずっと消息不明となっていたが、1943年にドイツ軍がソ連領で多数のポーランド人将校の遺体を発見したことから、この事件が発覚する。 本編では、将校の夫を持つ妻アンナを主人公に据えて、女性からの視点で事件の歴史的事実を描いている。娘のニカとともに、犠牲者リストに名前の載らなかった夫の無事を信じ、待ち続ける残された女たちの苦悩――。 抑えられた色調で、淡々とすすんでいくドラマにはリアリティ。色調とともに音も抑えられている。時おり当時の映像を挟んで、より重い歴史の真実が告げられる。誰もがまだ、未来に、ソ連軍による大量虐殺が待ち受けていることを知らない。 ただ、アンナの夫アンジェイは、捕虜になってから、事細かに起る出来事を手帳に書き留めていく。いつか遺書になってしまう予感を感じたのだろう・・・・・・そのことは観客にも十分わかるから胸が苦しい。 デビュー作『世代』からはじまる抵抗三部作は、とくに好きな作品だった。その悲劇の若きレジスタンスたちを彷彿とさせる青年が登場していたのは、きっと過去へのオマージュ。 中盤の人間模様から若干道が逸れ、パーフェクトとは言いきれない作品かもしれないけれども、祖国の暗い歴史を、今またもう一度、見つめ直そうとするワイダ監督の屈強な精神には頭が下がる思い。 85歳となったワイダにとって最後となるかもしれない監督作品ゆえ、ファンにとっては特別だ。 監督/ アンジェイ・ワイダ 原作/ アンジェイ・ムラルチク 『カティンの森』 脚本/ アンジェイ・ワイダ ヴワディスワフ・パシコフスキ プシェムィスワフ・ノヴァコフスキ 撮影/ パヴェル・エデルマン 音楽/ クシシュトフ・ペンデレツキ 出演/ マヤ・オスタシェフスカ アルトゥル・ジミイェフスキ マヤ・コモロフスカ (カラー/122分/KATYN) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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