家庭内暴力で傷つきながら生きる人々の魂と魂のぶつかり合いを、残酷な暴力描写
と緊張感溢れるタッチで描く衝撃作。
この作品は、映画館ボランティアをしていたころ、丁度<シアターキノ>でかかっていた。い
ま、<蠍座>で上映していることを知って、ひさしぶりに映画館へと足を運んでみた。
ひと昔まえなら、どうせハッピーエンドになる――と思いながら観ていたものが、現代韓国
映画は、どうせサッドエンドだろうと思ってしまう嫌いがある。
むきだしの怒り、むきだしの憎しみ、どうにもならない負の連鎖は、強いやるせなさと哀しみ
でいっぱいだ。
借金の取り立てをしているサンフンには、壮絶な過去がある。
子どもの頃、父親の暴力で、母と妹を同時に目の前で亡くしていたのだ。その父親が、15年
の刑期を終えて、自宅に戻ってきてからは、コントロールできない怒りと憎しみと復讐心に苦
しみ、自制心を失いつつあった。
高校生のヨニも、壮絶な毎日を送っていた。ベトナム戦争から還った父親は、暴力を振るう男
で、母が死んでからは家事を一手に引き受けながら、ますます精神を病んだ父と、金を無心す
る無職の弟に苦しめられる毎日なのだった。。
そんなふたりが出会って、ふたつの魂は救われていくかに思える。ほっとするような、優しい時間
が流れる。
けれども、現実はそう甘くない。一緒に過ごした時間も空しく、どこまでも暴力というものは残酷で、
そこからはなにひとつ生まれることなく、ただ悲しみだけが残されていく――。
この物語のなかには、たくさん家庭内暴力が出てくる。サンフンが借金取りに出向いた先の家族や、
サンフンの姉夫婦や、様々に。そして、それによって怯える子どもや妻や女たちの姿が、執拗に映し
出される。監督からの、直球すぎるメッセージに他ならない。
現代の韓国も、こんなふうに家族の崩壊はすすんでいて、深刻なのだと思うと、身近に思えてくるけ
れど、日本の事情とはややすこし違うのかもしれない。
なんと監督は、サンフンを演じているヤン・イクチュンで、製作・脚本などひとり5役をこなしている。
しかもこれが長編デビュー作。とても長編初とは思えない見事な緊張感とドラマ性で驚かされる。
女子高生ヨニを演じたキム・コッピがまた、すごくよかった。将来美人になりそうな顔立ち、存在感も
抜群で、ヨニの悲しみや怒りや諦めを体当たりの演技で好演していたと思う。
あまりに残酷でR-15指定となっているけれども、底に流れているのは善でありたい願う清さなのだ
った。心から血を流しながらも、悪に染まりきらず、どんなに憎んでも、家族であることの絆を断ち切
れない人間性に、純真さをみないわけにはいかない。
せめてこの映画にだけは、サンフンとヨニにだけはハッピーエンドをと、祈りたい気持で最後のほうは
観ていたけれど・・・韓国映画にそんな結末は望めないことがかわるから、少し悲しくもあった。
綺麗事を見せてくれ!と、こんなに願ったのは、めずらしいことだった。
出演/ ヤン・イクチュン キム・コッピ イ・ファン チョン・マンシク