こちらも懐かしい、映画館ボランティアをしていたころに上映されていた作品だ。
評判がよく、ロングランにたくさんのお客さんが詰めかけていた。劇場でみることが
できなかったので、レンタルにて。
刑事裁判所を定年退職した主人公ベンハミンは、有り余る時間をつかって、かつ
て暗礁に乗り上げた、忘れられない殺人事件を題材に、小説を書こうと決意する。
25年前、銀行員リカルドの最愛の妻が、暴行され殺害された事件だ。
当時、ベンハミンと相棒パブロは、上司イレーネと共に、わずかな手掛かりを元に、
犯人と思われる男を追い詰めたのだった。しかし、国家に重要な証言をした男は、
知らぬ間に自由の身となっていた―。
釈放された凶悪犯から、逃げるようにして街を去ったベンハミンは、25年ぶりに街に
戻ってきた。
当然、当時の捜査状況など、回想シーンのサスペンス要素がおもしろいのだけれど、
ベンハミンが叶わぬ恋をする、イレーネとの恋愛模様のほうも見どころなのだった。
婚約者のいるイレーネに、そっと想いを寄せる彼の、不器用で純粋な愛情にほださ
れて、目が離せなくなる。
いまでは昇進して検事となったイレーネは、再会したベンハミンと共に、忘れられない
過去を思い出していく。
妻を殺されたリカルドの苦悩、アル中だった部下パブロの死の真実、止めようもなく惹
かれていった互いの存在についても・・・・。
人好きのする上質なサスペンスで、回想シーンと現在を、巧みに行き来する展開は魅力的だった。
とはいえ、スケールはさほど大きくはなく、アルゼンチンが舞台という以外、既出感のある
サスペンスだといっていいと思う。では、どこに好評価のわけがあるのだろう。
たとえば、わたしが思うに、音楽がいい。それから、主人公の素朴でやさしい人柄がいい。
同じ役者さんによる25年の歳月の演じきりがスバラシい。
登場人物たちが、それぞれに25年間を振り返るとき。。そこには時の流れでしか表現できな
い、遥かなロマンがあって、これまでの道程に感慨深さをおぼえないわけにいかないのだった。
事件の真相と、被害者の夫リカルドの秘密を知ったとき、訪れるのは言いようのないやるせなさと、
安堵に似た感情。
人殺しも、強烈な憎しみを持続させることも、赦すことも諦めることも、愛し続けることもできる、
人間のすごさに、胸が締め付けられるのだった。
製作/ マリエラ・ベスイエフスキー フアン・ホセ・カンパネラ
脚本/ エドゥアルド・サチェリ フアン・ホセ・カンパネラ
出演/ リカルド・ダリン ソレダ・ビジャミル パブロ・ラゴ
(カラー/129min/スペイン=アルゼンチン合作)