肝癌再発予防のビタミンK投与について
『肝癌再発予防のビタミンK投与について』あるデータベース見ていたらこんなタイトルのQ&AがありましたなんとビタミンKが肝癌の再発予防になるそうです。主な内容はこんな感じです(詳細は下の内容を見てくださいね) ・肝細胞がんの腫瘍マーカーである『PIVKA-II』は、それ自体が肝細胞がんの増殖に関与している ・PIVKA-II高値の肝細胞癌患者にビタミンKを投与すると、血清PIVKA-II値が低下する ↓ ビタミンKはPIVKA-IIを介した肝癌細胞増殖抑制および予防効果が期待できるってな感じです。文中ではビタミンK2製剤(グラケー)45mg/日 で臨床試験をしているので、薬ではなく食品で同じ量のビタミンK2が取れないかなぁと思って計算してみました。 ビタミンKといって、まず思いついたのが 緑黄色野菜と納豆。しかし、緑黄色野菜のビタミンKはK1なので対象外。納豆菌によって産生されるビタミンKはK2なので、納豆で考えてみます。納豆1パック(50g)に含まれているビタミンKは約450μg(+ 腸内でも産生)です… 納豆菌による腸内でのビタミンK産生量がどの程度かはわかりませんが、1日に45mg取ろうと思うと 5kg近くの納豆を食べないといけないので現実的ではありませんね…やっぱり病院で骨粗鬆症という病名をつけてグラケーを処方してもらうのが一番現実的かなぁと思いました。【質問】 肝癌再発予防のビタミンK投与について 【回答】 わが国における死因のなかで、肝細胞癌(肝癌)によるものは年間約3万人であり、その約80%がC型肝炎ウイルス、10~15%がB型肝炎ウイルスによる慢性肝疾患を背景としています。C型肝炎ウイルスを背景としているものでは、肝硬変ないし線維化の進んだ状態からの発癌が大半であり、肝線維化の進展に従って発癌率が高くなるといわれています。画像診断の進歩と普及などにより肝細胞癌の早期発見が可能となり、あわせて治療法の発達により、根治療法が可能な例が以前より増加しています。しかし、他の消化器癌とは異なり、根治的治療がなされたと考えられる場合においてもなお肝癌の再発をきたし、累積生存率は治療後の経過とともに低下し続けます。完全に初発肝癌の根治的治療が行われた場合でも、背景にある肝の線維化の程度に応じて新たな肝発癌が生じえます。実際には肝硬変からの肝発癌率である年率8%より、はるかに高い肝癌再発率がみられます。■ビタミンKと血液凝固因子 ビタミンKは従来から凝固系、骨代謝などに関与し、臨床的に使用されています。 血液凝固因子のうちII、VII、IX、X因子は肝臓で合成されますが、それら前駆体から凝固活性をもつ活性型への変換にはビタミンKの作用が必要となります。ビタミンKは、主に腸内細菌により合成される脂溶性ビタミンであるため、胆汁うっ滞や抗生物質の投与により、その吸収が阻害されます。これらのビタミンが欠乏するとN末端領域のグルタミン酸残基がカルボキシル化されず、凝固活性をもつことができません。これら異常凝固因子はおのおのPIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)-II、VII、IX、Xと名付けられています。■肝癌とPIVKA-II 異常凝固因子PIVKAのうちPIVKA-II〔別名:DCP(des-γ-carboxy prothrombin)〕は1984年にLiebmanらにより肝細胞癌に特異的なマーカーとなりうることが報告され、現在臨床現場では肝細胞癌において代表的な腫瘍マーカーであるa-フェトプロテイン(AFP)とは相関性のない肝細胞癌の特異的マーカーとしてECLIA法で測定されています。その後の検討により、PIVKA-II陽性の肝細胞癌は陰性の肝細胞癌と比較して予後が不良であることが報告されました。さらに、肝癌患者におけるPIVKA-II高値が、肝癌の予後不良因子の1つである門脈腫瘍湿潤(PVI)の発生と密接に関連することが明らかにされています(100AU/L超で5.7倍)。また、近年PIVKA-IIが肝細胞癌細胞表面の肝細胞増殖因子受容体に結合し、その細胞増殖を直接刺激していることがわかりました。これらにより、PIVKA-IIが単なる腫瘍マーカーではなく、肝細胞癌に生物学的ならびに臨床的性質そのものに深く関わっていることが明らかになりました。■PIVKA-IIとビタミンK PIVKA-II高値の肝細胞癌患者にビタミンKを投与すると、血清PIVKA-II値が低下することが報告されています。さらに、肝癌組織中のビタミンK濃度は周囲の肝組織に比べて低下しているといわれています。これらのことから、ビタミンKはPIVKA-IIを介した肝癌細胞増殖抑制および予防治療法として期待されています。■肝癌の再発抑制とビタミンK ビタミンKのin vitroにおける各種癌細胞増殖抑制効果は多数報告されており、ビタミンK3、K2、K1の順に効果が強いことが示されています。肝癌細胞株に対するビタミンK2とK3の増殖抑制機序の解析では、両者の作用機序は異なることが推測されています。 ビタミンK2の作用機序としては、PKA※を活性化することにより、CREB※、AP2、USF※などの転写因子を活性化し細胞増殖を抑制するとともに、細胞浸潤に需要な低分子量GTP結合蛋白質の1種であるRhoを抑制することにより浸潤能の抑制作用を発揮することが推定されています。他方、ビタミンK3については、フリーラジカルの産生を介した細胞障害機序が想定されています。しかしながらビタミンK3の側鎖であるgeanlygeraniol自体の腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導作用が報告されており、ビタミンK3自体の抗腫瘍効果はまだ十分解明されていないようです。また、ビタミンK3にさまざまな側鎖を結合させたアナログを作成し、それらの一部にも肝癌細胞株に対し強力な増殖抑制作用があることが報告されています。 これらをふまえて、すでに医薬品として骨粗鬆症などの疾患に臨床応用され、長期服用における人体への安全性が確認されているビタミンK2の経口投与による肝発癌予防、主として二次発癌予防の臨床研究の成績が報告されつつあります。関東中央病院消化器内科の小池氏らは1999年2月より、PIVKA-II高値の肝癌症例に対し肝癌治療後にビタミンK2(商品名:グラケー)を1日45mg投与するランダム化対照試験を行った結果、腫瘍の進展抑制ならびに門脈内腫瘍湿潤(PVI)の発生抑制効果(約3分の1)を見いだしています。さらに生存率についても、試験開始後2年目以降での改善を認めています。この試験をもとに、2004年4月より肝臓治療例に対するビタミンK2による再発抑制効果を明らかにする目的で臨床治験が開始されており、その成果が期待されています。※<略号> PKA : プロテインキナーゼA(cAMP-Dependent Protein Kinase) CREB : cAMP responsive element binding protein USF : Upstream Transcription Factor-2 【参考資料】・白鳥康史ら:肝癌再発の問題とその予防(IFN、ビタミンK) / Pharma Medica vol.22 No.7:63-67,2004・水田敏彦:Vitamin K2による肝細胞癌再発抑制効果 / 消化器科 vol.36 No.6:629-633,2003・第40回日本肝臓学会総会 ~DCP陽性肝癌へのビタミンK2投与~2年生存率は非投与群の2倍に / Medical Tribune vol.37 No.26:11,2004・ビタミンKが肝癌を抑制 進行例の生存率が2倍向上 / 日経メディカル No.416:35,2002