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鬼の居ぬ間に洗濯

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長次郎尾根

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January 13, 2006
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カテゴリ:おすすめのマンガ
 年が明けてから不調なのは、風邪のせいもあったのだけれども、このマンガにすっかり打ちのめされてしまったのが主要な原因。
 
 一組の母娘を中心にした女性たちの人生観、恋愛観、家族観を描いた五つのエピソードをまとめたものだが、とくに打撃的だったのが第四話と第五話。
 
 昨日もブログに書いてみようとしたのだが、うまくいかず、時間ばかりが過ぎてしまい、かといって、この作品を無視しては、このブログそのものがウソっこになってしまうので、よしながふみさんの繊細な組み立てに反して、きわめて雑駁に書きます。

 第四話は、将来、仕事も家事も男女共同ですすめ、自立して生きようと誓い合った中学生三人組のその後の話。他の二人が安定した公務員になりたいというのに対し、「あたしは絶対民間で定年まで勤め上げようと思ってる。だって女にとってまだ働きづらい民間でがんばった方が後々の働く女のためになるでしょう」ともっとも先鋭的な考えの持ち主だった牧村は、自活するといって家を出て全日制高校を中退し、定時制へとすすみ、そこも中退し、大検を受けるといいつつ、結局は受けず、結婚に逃げようとする。
 相談を持ちかけられた三人組の一人、佐伯は、「後々の働く女の人のためにがんばるって言ったじゃない」と問いただすが、牧村は無表情に「佐伯は まだ子どもだね」とつきかえす。
 ある日、佐伯は、ふとした拍子に、牧村が父親から性的な虐待を受けていることをほのめかす発言をしていたことに気づき、愕然とする。

 第五話は、主人公の母親が、世間から見れば明らかに美人なのに、いまだに自分の容姿を認められない理由を解き明かす。祖母(実母)に幼い頃からくり返し、「あんたは不細工だから」と言われ続けたせいであることを主人公は知る。主人公の母は、祖母のふるまいが、時代を背負った女性の限界からきているものだと理解していても、祖母を許せない。

 この二つのエピソードが、私の母と、私が長年つきあい、別れたパートナーという二人の女性の人生と重なって、私は打ちのめされた。

◇ ◇ ◇ ◇

 父については、すでに書いた。
 母は、中学校までは「●中始まって以来の秀才」と呼ばれた人で、IQも150を超えていたらしい。「浪人すれば東大に入れたのよ」というが、家庭の経済的事情が許さなかったとのことで、現役で別の国公立大学に進んだ。さらに大学院に進学したが、修士課程を修了する段階で、「女性にはその先のポストはない」とその先への道を断念させられた。

 修士課程で知り合った父はそのまま博士課程に進み、運良くポストを得て研究者への道を歩んだが、週一度の看護学校での「倫理」の非常勤講師以外、事実上専業主婦の母は、「才能なら私のほうが」とぼやいていた。人生へのストレスが大きいと思うのだが、潰瘍性の難病にかかり、入退院を繰り返している。

 東京生まれ、東京育ちの母は、両性の平等をはじめとする戦後民主主義の空気をいっぱいに吸って育った人で、人権や平和主義についてのストレートな物言いは、私の人格形成を強く方向付けた。

 しかし、いまの時点での母はどうか。たしかに頭の回転は速いのだが、会話はあちこちに飛び、つい五分ほどまでに自らが批判していたことを今度は肯定的にもちだす、ということがしょっちゅうである。
 
 おそらく図書館の本などによって理論武装した牧村が、現実社会のきびしさに抗いきれずに、よろいを次々とはがしてしまったものを、私は、母に見出す。
 彼女の才能とそれをもってして実現しようとした理想が、現実の壁にはばまれ、妥協と言い訳を重ねた結果、「落ち着かない知性」としてしか結実していないことを、ひじょうに悲しく、残念に思う。

◇ ◇ ◇ ◇

 別れたパートナーはどうだったか。
 家庭では、父親が、彼女にではなかったが、母親に暴力をふるいつづけた。母親は、父親そっくりの彼女を醜いといいつづけた。彼女は高校のときは鏡を見ることもできなかったという。

 そして、彼女は、牧村同様、豊かな文学的素養ときわめて進歩的な考え方の持ち主だったが、対人関係においては何事にも消極的だった。
 自らの希望はあってもけっしていわず、またいくつかの提案をしても選択することをしなかった。私が彼女の希望を先回りして、「今日は●●がいいな」というと、彼女は安心した表情を浮かべるのだった。

 私にとっては、彼女のふるまいは受け入れにくいものだった。独立した対等平等な関係を築きたく、過去に受けた傷は認めつつ、彼女には合理的な思考で乗り越えてほしいと願ったがかなわなかった。
 彼女が安心した表情を浮かべるとき、私は悲しい気持ちになり、その気持ちのとおりにふるまったと思う。それは今日のDVにおける「ネグレクト」に相当するのではないか? そして、彼女から別離を提案されたとき、つきあいつづけるこだわりをもてずに受け入れた。

◇ ◇ ◇ ◇

 このマンガでは、母は祖母を反面教師として娘を愛しみ育て、娘はそうした祖母と母の限界を認めつつ、二人を受け入れて生きていく(第五話)、三人組のなかで一番消極的だった一人が、いまも中学生のときの誓いを胸に働き続けていたり(第四話)、などしていて、リアリティーのある救済が描かれており、また、過去との断絶ではなく、過去を継承した進歩的未来への希望になっている。

 しかし、私にとっては、それ以上に、過去に背負わされた傷を乗り越えることの難しさをつきつけられた重たさが残った。それは、マンガの登場人物が、それぞれ無教養ではなく、一定の人権感覚を身につけているだけに。

 また、どんなに進歩的な願いをもっていても、それを個人の人生のなかでかなえることの難しさについて、考えさせられた。
 日本社会全体としては戦後から戦前への女性の権利の伸長のように巨大な前進があった。しかし、それは、一人ひとりの人生という単位でみれば、「理解力のある娘が育ってくれた」「結婚しても働きつづけ、夫にも家事を少しずつでも分担してみようと試みている友達がいてくれる」といういとおしいがささやかなものにしかならないのだろうか(牧村の得たものは「暴力をふるわないパートナー」である)。

 そんなときに自分にははたして何ができるのだろうかと思うのだ。
 保育園時代、居間のテーブルに立って「自主独立!」と叫ぶのを日課にし、また、それを容認する家庭で育った自分は、何かとっぴな理想主義のなかに生きている気がする。
 自分のかかげる理想が、日本社会の現実の前にはあまりに空疎で、地に足のつかないあいまいなものに過ぎず、いまを生きている人の心の琴線にふれることはできないのではないかとか。遅々とした、しかし確かな進歩にたいして、親身につきそえる人間ではないのではないか、とか。不安におそわれるのです(少なくとも別れたパートナーとの関係では、現実になってしまったよう)。

 支離滅裂な文章ですみません。自分のために書きました。

愛すべき







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Last updated  January 13, 2006 10:35:28 PM
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