『蘭菊の狐』 西村寿行
耄碌した老スリ。壺振りしか出来ないヤクザ。馘になった元刑事。行くあてのなかった奇妙な三人が峠を降りて辿り着いたのは・・・。【オサキ持ち】-尾裂狐・憑きものの家筋。野菊が咲き乱れた中で、大利鎌を両手で持った少女が立っていた。憑き物。犬、狼、猫、狸、鼬、オコジョ、蛇。地方により異なる。中でも忌み嫌われるというオサキ・尾裂狐は九尾の狐からきている。こうした憑依霊はかつて、政治のために考案された。村一番の金持ちがやられるのである。村や町を分限者だけのものにしないための自衛手段であり、作り出された差別であった。憑き筋の家のものは村八分にされる。元服、婚礼、葬式、普請、火事、病気、水害、旅行、出産、追善村での交際である十の行事。このうちの葬式と火事をのぞいた他の八分を断つ。迫害されてきた出雲家。もともとの原因は祖父にあるものの…母が、父が、そして兄までが犠牲に。残されたのは少女・阿紫、犬、猫、猿、そして狐。復讐を決意する。いきなり出会った怪しい三人。なんか唐突だなーと思うまに、さらに妖しい少女が登場。いつの間にやら、話に引きずり込まれていきました。何か事情のありそうな男たち、事情がありそうな村。影のある独特な雰囲気。↑にも書いたような、古くからの慣習、【憑き物】と村。この辺りの話はとても興味深く読めて面白かった。一つの村の暗い歴史。とり憑かれる人びと。坂東さんの『狗神』を思い出しますが、あまりネチネチした感じはせず、大雑把というか男くさい。それはやはり男の視点(この話では三人組の中のひとり)で描かれているからなのでしょうか。逆に阿紫の視点では描けばもっと怖い話になるのでしょう。初めて読みました、西村寿行。(声にこそ出したことはないが、何となく「ブギョウ」だと思っていた頃も。笑)本屋などでよく名前を見かけるわりには、全く馴染みのなかった作家。以前(だいぶ前ですが)HIMEGUMAさんに何点かお薦め作品を教えて頂いたうちの一冊です。どうもありがとうございました。西村さんはハードバイオレンスの巨匠と言われているようで、当然この話もそういった場面は何度かあります。でもこちらは逆にパッとしないように思えた。男への暴力は、結構描写もあっさりしているのに比べ、女への暴力は、やはり一つのところに行き着く。で、皆同じ反応を示してしまう。この本がたまたまそうなのか、それともこの作者が書くと必ずこうなるのか・・・。迫力や、痛さ、エグさなんていうのは花村萬月とかのほうが数段凄いかな、と。ただ、この本の発行は20年近く前だし、時代なども考慮に入れないといけないでしょう。この方、ストーリー展開も巧いし、登場人物も魅力があるので、バイオレンスなしでも面白いのでは、と思います。ジュコウさんのお兄さんは、何度か直木賞候補になった西村望。私は読んだ事がありませんが。やはり似たような作風なのでしょうか?