『守宮薄緑』 花村萬月
沖縄を舞台にした小説を書くために、那覇にやってきた男。亜熱帯の空の下、さびれたホテルを定宿にした小説家は、社交街にくりだす。様々な女と交わり話をし、生を実感する・・・ 表題作『守宮薄緑』他7編。『守宮薄緑』は「やもりうすみどり」と読みます。「やもり」は「いもり」みたいな爬虫類のヤツです。ちなみにいもりは両生類。この字をあてているという事は、何か意味があるのでしょうね、やもり(守宮)。この漢字の題名の綺麗な字面に誘われました。ひょっとして爽やかな花村萬月?とも思いましたが、甘かった(笑)やはり、重いです。性衝動に忠実な人物達。特殊浴場。ヒモ。くすり。暴力。触覚。相変わらずの凄い描写ですが、ただのエロだけではない。その奥に、否定したくても、しきれない、生きる為の本能がある。『守宮薄緑』・・・最後の描写、対比が綺麗。その見つめる目から、『羅生門』に出てきたコオロギを思い出しました。『核』・・・痛いです、とても。こういうのは『レディMの物語』篠田真由美、くらいしか読んだことはないのですが、迫力、凄みが違う。『穴があいている』・・・この中では一番とっつきやすいでしょうか?それでもスッキリといくわけではないですが。理不尽な憎しみほど怖いものはないですね。あとがきで作者は、吉行淳之介の言葉を引いて、落ちのある短編には抵抗がある、というようなことを言ってます。そしてこの短編集には5年をかけた、とも。ただ短いのではなく、逆にその分重みが濃縮されたような感じをうけました。この人の小説はダメな人は全く受け付けないでしょう。作品によっても変わると思いますが、花村萬月は好き嫌いがはっきりする作家だと思います。