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2008/05/31
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テーマ:徒然日記(23285)

前の日記の続き

船頭
さてもさても ただ今、静(しずか)の 君に名残りを惜しませらるる態(てい)を見申し
我等ごとき心無き者までも そぞろに涙(なんだ)を流し候。
いづくまでも御供(おんとも)と思し召し これまでにて御供(おんとも)にて候えしが 
これにて御別(おんわか)れなさるる事 ご心中、ご察し申して候。 
また、君の御諚(ごじょう)には 遥々 波濤(はとう)を凌(そそ)ぎ伴われんこと、人口(じんこう)
しかるべからずとの御事。
これも、ごもっともなることにて候。
まことに世情に申すに 鬼神(おにがみ)よりも恐ろしき 平家を滅ぼし給いし後(のち)は 
ご兄弟の御仲(おんなか) 日月(にちげん)のごとき ござわるべきを 言いかい無き者の
讒言(ざんげん)にて御仲たがわせられ 西国の方(かた)へ 御下向(おんげこう)なさるる
御事(おんこと) まことに口惜しき事にて候。
さりながら 神は護道一体(ごどういったい)の御事(おんこと)なれば おっつけ御仲(おんなか)
なおらせられ ご上洛(しょうらく)なさりょうずるは 疑いもござない。

いや。。いわれざる 独り言をもうさずとも 最前、武蔵どのに 御船(おんぷね)の御事を 
仰せ付けられて候が いかにも 足の速き御座船(ござふね)を 用意つかまつりて候。
まずこの由(よし)、武蔵殿に申し上ぎょう。


いかに武蔵殿に申し上げ候。
ただ今、静の 君に名残を惜しませらるる態を見申し 我等も落涙仕りて候が、
武蔵殿には何(なに)と ご覧ぜられて候ぞ。


弁慶
何(なに)と ただ今 静の有様を見申され 落涙いたされたる候や。

船頭
なかなかの事。

弁慶
もっともにて候。 また、最前申したる御座船は 用意いたされて候か。

船頭
さん候(ぞうろう) いかにも足の速き御座船を 用意つかまつりて候あいだ、 何時(なんどき)にても
御諚次第(ごじょうしだい) 出(い)だし 申そうずるにて候。


弁慶
さらば、やがて 出だし申そうずるにて候。

船頭
かしこまって候。

弁慶
静の心中察して申して候。 やがてお船を出だそうずるにて候。

従者
いかに申し候。

弁慶
何事にて候ぞ。

従者
君よりの御諚(ごじょう)には 今日は波風荒く候ほどに 御逗留と仰せ出(いだ)されて候。

弁慶
なにと御逗留と候や。

従者
さん候。

弁慶
これはみどもが推量もうすに 静に名残を御(おん)惜しみあって 御逗留と存じ候。
まず御思案あってご覧候え。 今この御身にてかようの事は 御運も尽きたると存じ候。
その上 一年(ひととせ) 渡邊福島(わたなべふくしま)を出でし時は 以(もっ)ての外(ほか)の
大風なりしに。
君 御船を出だし 平家を亡ぼし給いし事 今 以って同じ事ぞかし。
急ぎ お船を出だすべし。


従者
げにげに これは理(ことわり)なり。 いづくも敵と夕波の

弁慶
立ち騒ぎつつ 舟子ども。

船頭
かしこまって候。

地謡
えいやえいやと夕汐に つれて船をぞ 出だしける。



船頭
みなみな、お船に召され候え。
武蔵殿にも 召され候え。

そうらば お船を 出だし申そう。

いえ~~い、 いえ~~~い。いえ~~い、いえ~~い。
さて、 武蔵殿に申し上げ候。
今日った(こんにった)君の 御門出(おんかどで)の船路に 一段の天気にて めでとう候。



弁慶
げにげに 一段の天気にて君の 御幸せ(おんしあわせ)にて候。

船頭
また、御座船には 屈強の水夫(かこ)どもを すぐって乗せ申して候が 武蔵殿にはなにと
ご覧ぜられて候ぞ。


弁慶
まことにお手が揃うて武蔵も 満足申して候。

船頭
いや、武蔵殿のさように仰せらるれば 我等も満足申して候。
いえ~~い。いえ~~い。いえ~~い。いえ~~い。

さて、武蔵殿に ちと些少(そしょう)申したきことの候が 申そうずるが ただし何(なに)と
ござわろうずるぞ。


弁慶
何事にて候ぞ。

船頭
別なることにても なく候。
ただ今でこそ ご兄弟の御仲(おんなか)たがわせられ 西国の方(かた)へ 御下向(おんげこう)
なさるれども 神は 護道一体(ごしんいったい)の御事(おんこと)なれば おっつけ御仲(おんなか)
直らせられ ご上洛(しょうらく)なさりょうは 疑いもござない。
その折節(おりせつ)、西国の海床の梶取(かんどり)を それがし 一人(いちにん)へ仰せ付け
らるるよう おとりなしあって賜われかしとの 申しごとにて候が これはなにと ござわろうずるぞ。


弁慶
されこそ方々に似合いたる 事にて候。
君の上洛 賜るまじく候あいだ、これより西国への海床の事は そなた一人に仰せ付けられ候ほどに
御とりあわせ 申そうずるにて候。


船頭
それは近頃、かたじけなく候。
さりながら ただ今でこそ かようにいろいろと御約束(おんやくそく)なさるれども すわ、
おぼしめすままに あい かのんのようになれば 得て、忘れさせらるるものにて候が 必ず
ご失念なきよう 頼み存ずる。


弁慶
武蔵にかぎり偽りは 申さず候。

船頭
いや、武蔵殿の さよう仰せらるれば 我等が些少(そしょう)の事も ざっと適うたと申すものじゃ。
いえ~~~い、いえ~~~い。いえ~~い、いえ~~い。

はぁは。。最前までは 少しも見えなんだに あの武庫山(むこやま)の上に むつかしい雲が出たが
いつもあの雲が出(づ)れば 得て、風になりたがるものじゃが 今日(こんに)ったなにとぞ
風にならぬようにいたしたいものでござる。

いえ~~い、いえ~~い。 いえ~~い、いえ~~い。
いやぁ。さればこそ。押し出すは、押し出すは。
そちの間に雲を押し出し その上、風も変わり 海上(かいしょう)の態(てい)が荒うなった。
みなみな精を 出(い)だし候え。


(片方の肩衣を外す)

いえ~い、いえ~い!

弁慶
げにげに 海上(かいしょう)の景色が変わって候。

船頭
いや、船頭自身。 櫓に取りついだからには いかほどの波風なりとも 押し切って参るほどに
そっとも お気遣いあられまい。
いえ~~い、いえ~い。いえ~い、いえ~~い。

いやぁ。 さればこそあれから 大きな波がやって来る。
ありゃ、波よ! 波よ、波よ、波よ、波よ、波よ~~。
静まれ 静まれ 静まれ 静まれ 静まれ 静まれ~。
しぃ~~。しぃ~~。しぃ~しぃしぃしぃしぃ~。

いえ~~い、いえ~~い。いえ~~い。いえ~~い。

さて、かように申したならば かしましゅう 思し召そうずるが 波と申すものは 易しきものにて
しかればそのまま 静まるものにて候。

いえ~い、いえ~~い。いえ~い、いえ~~い。
いやぁ、さればこそまたあれから 強(したた)かな波が やって来る。
ありゃ、波よ、波よ、波よ、波よ、波よ、波よ、波よ。
静まれ、静まれ 静まれ 静まれ 静まれ 静まれ~。
しぃ~~~~~。しぃ~~、 しぃ~ しぃ、しぃ、しぃ、しぃ、しぃ~。


弁慶
あら、笑止や風が変わって候。 あの武庫山おろし 弓弦羽(ゆずりは)が 嶽(だけ)より
吹き下ろす嵐に この御船の陸地(ろくぢ)に  着くべき様(よう)もなし。
みなみな心中(しんじゅう)に お祈念候え。


従者
いかに武蔵殿。 この御船には妖怪(あやかし)が 憑きて候。

弁慶
いやぁ。しばらく。さようのことをば船中にては 申さぬことにて候。

船頭
いやぁら。ここな人が!
最前、お船にお乗りゃった時から なにやら一言 おしゃったそうな口元であったが 船中にてさようの
ことは 申さぬものにて候!


弁慶
船中、ご案内のものにてあるまいが 何事も武蔵に免じて ご和合(わあい)候え。

船頭
武蔵殿の さように仰せらるるものを 申そうではござないが あまりなことを 
おしゃるによっての事にて候。

いえ~~い、いえ~い。 いえ~~い、いえ~~い。
いやぁ。さればこそまたあれから 大きな波がやって来る。
波よ、波よ 波よ、 しぃ~~、しぃ~、しぃしぃしぃ。



弁慶
あら不思議や 海上(かいしょう)を見れば 西国にて亡びし平家の一門。
おのおの浮かみ出でたるぞや
かかる時節を窺(うかが)いて 恨みをなすも 理(ことわり)なり。


義経
いかに弁慶

弁慶
御前(おんまえ)に候。

義経
今更驚くべからず。 たとい悪霊恨みをなすとも そも何事のあるべきぞ。
悪逆無道(あくぎゃくぶどう)のそのつもり  神明仏陀(しんめいぶっだ)の冥感(みょうかん)に背き
天命に沈みし平氏(へいじ)の一類


地謡
主上を始め 奉り 一門の月卿雲霞(げっけいうんか)の如く  波に浮かみて 見えたるぞや。

知盛
そもそもこれは 桓武天皇九代の後胤(こういん)。 平の知盛。 幽霊なり。
あら珍しや いかに義経。 思いも寄らぬ浦波(うらなみ)の


地謡
声をしるべに出船(いでふね)の 声をしるべに出船の

知盛
知盛が沈みしその有様に

地謡
また義経をも海に沈めんと 夕波に浮かめる長刀取り直し 巴波の紋辺(もんあたり)を払い
潮(うしお)を蹴立て悪風を吹きかけ 眼(まなこ)も眩(くら)み 心乱れて 前後を忘ずるばかりなり 



義経
その時 義経 少しも騒がず 

地謡
その時 義経 少しも騒がず 打物(うちもの)抜き持ち 現(うつつ)の人に 向こうが如く
言葉を交わし 戦い給えば 弁慶押し隔て 打物業(うちものわざ)にて叶(かの)うまじきと
数珠さらさらと押し揉んで 東方降三世(とうほうごうざんぜ) 南方軍茶利夜叉(なんぽうぐだりやしゃ)
西方大威徳(さいほうだいいとく) 北方金剛夜叉明王(ほっぽうこんごうやしゃみょうおう)
中央大聖(ちゅうおうだいしょう) 不動明王の策(さつく)にかけて 祈り祈られ悪霊次第に遠ざかれば
弁慶舟子に力を合わせ お船を漕ぎ退け汀(みぎわ)に寄すれば なお怨霊は 慕い来るを追いつ払い
祈り退けなた引く汐に  ゆられ流れ また引く汐に ゆられ流れて 跡 白波とぞ なりにける。






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最終更新日  2008/05/31 08:55:51 PM
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