[蝸 牛]
山伏:茂山千五郎 太郎冠者:茂山逸平 主:茂山茂 後見:茂山正邦
笛:一噌幸弘 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井広忠
舞台右袖から、先ほど退場されたばかりの広忠さんと、源次郎さんと一噌さんが再び登場されました。
狂言のお囃子は普通、大鼓と小鼓が向かい合わせになって、客席に向かって横向きになるものですが、音響の加減でしょうか、この日はみなさん正面を向いてらしゃいました。
ゆるゆると始まる囃子の音に耳を傾けていると、いつの間にか山伏の千五郎さんの名乗りが後ろの方で始まってました。
囃子の音に乗って、花道の奥から出てらしたんですね。
席が前だったので、全然気付かなかった~~。
囃子方の面々は、早々にご退場。これが囃子方の狂言会釈(きょうげんあしらい)というものなのね。
「大峰葛城山で修行した山伏でぇ~~す。」 この時点でちょっとプッとなりますね。
「飛ぶ鳥を祈り落とすほどの強力の持ち主でぇ~~す。」 ここまでくれば、自画自賛の怪しい山伏さんに苦笑しまくりです。
千五郎さんのかもし出す雰囲気がいかにも怪しげでワクワクしてしまう。
山伏さんは眠くなって藪の中でゴロリと横になってオネンネです。
今度は、主人の茂さんと太郎冠者の逸平ちゃんの登場~。
祖父に贈るカタツムリを取ってくるように言われた太郎冠者が藪に出かけて、山伏と遭遇~。
太郎冠者に起こされて、眠い目をこすりこすりする山伏の千五郎さんの所作が、本当に眠そうでリアルでした。
カタツムリを見たことのない太郎冠者は、すっかり山伏をカタツムリだと思って疑いません。
おバカな太郎冠者を騙してやろうと、山伏はカタツムリである証拠を次々と披露していきます。
「それ。それ。それ、それ、それ、それ~」と、太郎冠者に貝殻を見せたり、角を見せたりする掛け合いの間が、心地よいほどピッタリでとっても面白し。
「一緒に主人の所まで来てくれ」、という太郎冠者に、「囃子物がないと行けない~」と山伏は言って、謡いが好きな太郎冠者は山伏の言うとおりに謡いだします。
『はぁあ あ~めも か~ぜも 吹かぬに でなかま う~ちわろ~ でなかま う~ちわろ~』
『で~んでん む~しむ~し で~んで~ん む~しむし で~んで~ん む~しむ~し で~んで~ん むっしむし~』
延々と続く、楽しい謡い囃子。 純真無垢な太郎冠者を難なく演じる逸平ちゃん。
山伏も「騙す」というより、この囃子物をマジで愉しんでいるのが伝わってくる。
逸平ちゃんの声は大き過ぎず、良く通る声でした。
そうこうしていると、太郎冠者の帰りが遅いと、様子を見に来た主人が再登場。
山伏と浮かれている太郎冠者を見て、ビックリ仰天。
騙されてるぞ~。と、太郎冠者に伝えるも、山伏の呪術によって、主人までも囃子物に浮かれて舞い出してしまう(笑)
主人役の茂さん。お声は高い方ですので、太郎冠者を叱っている所は「わわしい女」風に聴こえなくも無い。
最後は3人で浮かれて、花道を通っての退場でした。
いつもの能楽堂の橋掛かりより長い道のりですから、いつまでも楽しい「で~んで~ん む~しむ~し~」が聞けて面白かった。
茂山家の狂言は、肩に力が入らず気楽に愉しめるのが魅力です。
にっこりと笑う逸平ちゃんの笑顔がたまらなくキュートでしたし、額に光る汗も爽やか~な印象でした。