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カテゴリ:医療行政
さて、先日までのお話では、医療側からの意見をあえて差し控えていました。なにも意識して控えたわけではなく、実際に医療者の意見は政府、社会に黙殺されて来ているのです。個人的な考えとしては、例えば泥棒が泥棒を取り締まる法律を作ってもろくなものが出来ないのと同じで、医療に携わるものが医療の制度を作ると、どうしても医療者に有利な仕組みになってしまうと思われます。この考え方は、少なくとも多くの医師に共通していて、我々は学生の頃から、「医師、医療は患者のことのみを優先し、その他のことは度外視すべき」という理念を叩き込まれているのです。
このような良心を持った人間が大勢をしめる日本の医師たちは、社会的な動きをすることに慣れていません。そして、医療という職業は不確実性の塊で、信念に基づいて独走することは失敗につながるという性質がありますから、医師たちが陣頭に立って制度を改革するという動きは極めて起こりにくいのです。 しかし、現在のような状況になって、医療者側も、ただ黙って耐えているだけでは誰も助けてくれないことに気づき始めています。多数の医師がブログ等、インターネットで自分の意見を主張し始めているし、逆に現場から逃散する医師もいます。私自身は、現場の医師の主張として、これまでなされなかった医療制度についての提言をするべきではないかと思っています。 以前、このブログのエントリーで、「診療報酬改定に関する私案」を書きました。 現在、それに多少の変更を加えた考え方を持っていますので、以前のものに書き加え、掲示しておきます。(あくまで総論的なもの。各論は議論、加筆の必要があります) 1.国民皆保険は基本的に維持。ただし各医師の裁量権を拡大する。 ・現行の医師技術料は一律で、医師の技量による差はない。これを改める。 手術、GIF CF等の内視鏡検査、心臓カテーテル検査等、医師の技術により差がでるものは、 術者の裁量により規定点数の50%~200%の範囲で点数を決めることができる。ただしこの権利を有するのは各学会が定めた専門医に限る。保険で賄うのは規定点数の7割(現行の値段) ・外来初診料、再診料についても、現行の規定点数の50%~200%の幅で裁量を持たせる。裁量権は各医師に帰する。手術料、外来基本料のうち、ある一定の割合をドクターフィーとして各医師に還元する。 ただし、一律に高率の点数を付ける医師については手術、外来についての監査が必要。(これは第三者機関を設置)1年間の請求点数のうち、6割は規定点数でなければならないものとする。6割を超えるものに付いては、やはり監査が必要。不適当と思われる場合には罰則を設ける。(特殊な疾患ばかり来る施設があるという意見に対しては、疾患に対しての点数上の優遇でもって対応し、施設として特例を認めることはしないのが望ましい) ・入院に対する診療報酬については、医療の部分で現行の制度を維持。 2.各医師の治療成績、診療報酬の公表 ・専門医制度は現在ほぼ有名無実の肩書きであるが、これを改める。専門医を称するためにはある程度の治療成績、自分の技量にたいする評価が必要である。一般に判りやすくこれを数年に一度公表することを義務付ける。治癒率等は対象疾患によりバイアスがでるため、一案として、上記の制度が施行された場合、自身の手術料金、検査料金、専門外来基本料金を数年ごとに公表する。 3.救急に関しては、時間外料金は原則として患者自己負担。ただし入院が必要な疾患や、救急対応が必要と医師が認定した疾患に関しては保険診療が適応される。(これらには一応のガイドラインというか、適応疾患をあらかじめ規定する必要があろう) 4.医師法にある応召義務を改める(正当な理由があれば診療を拒否することができる) これらの基本路線に、いわゆる悪徳医師を排除する罰則を適宜設けて行くことが必要 上の案には、先に述べた官僚、政治家、患者の3者に対して、それぞれメリットがあります。 まず官僚にとっては、保険診療の枠組みを確保しつつ、罰則規定により医療全体の流れをコントロールできるシステムです。(もちろん極端な罰則はつつしむべきですが)さらに、予算の投入は現状どおりです。 政治家にとっては、フリーアクセスを禁ずることなく、アクセス制限を達成できます。つまり、アクセス禁止ではなく、民衆(患者)にアクセスを控えることを無理なく提言し、悪い言い方ですが、更にその責任を医師に転嫁できます。 患者にとっては、医師の技量の透明化という大きなメリットがあります。これまでは、どの医師にかかっても値段が一緒だけに、技量の判断が出来なくなり、それが医療不信の原因であったことは否めません。国が、責任を持って値段の管理をすれば、患者は、値段だけで医師の技量、経験を判断でき、非常にわかりやすいのです。医療費の自己負担が増えると思われがちですが、癌が心配なら値段の高い医者に。ただの風邪や腰痛なら安い医者にかかるというふうに、医療機関の使い方を工夫することで、出費を抑えることは出来るはずです。 もちろん、案としての欠点もあるでしょう。ですから、更なる議論は必要です。 もうちょっとだけ続くのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.11.15 21:55:37
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