|
カテゴリ:診療
宗教上の理由で、輸血等が許されない方々がいます。こういう方々に対する医療のスタンスはきわめて難しくなります。医療行為そのものが命に直結する場合、命を救う手だてをひとつ奪われることになりますから、最初から輸血の可能性がある場合にこれを拒否し、かつ医療を完璧に行えという注文は凄まじいストレスとなります。
まあ、通常の生活ではこれが問題になることはありませんが、医療の現場ではしばしば患者個人の信仰と、医療上の常識がぶつかり合うわけです。この問題についての是非はこの場で述べるつもりはありません。 先日、head&neckの外来にいらっしゃったこの宗教を信仰する患者さんへのhead&neckの説明は以下の通りです。 日本は宗教の自由が憲法で保障されています。いかなる宗教を信仰しようと、信仰しまいと、他人に危機を及ぼすものでない限り、それは本人の権利として国が認めているわけです。 一方、医師免許も国が認めた資格であり、ある意味では人の体に手を加えることができるという権力と見なすことができます。権力によって個人の権利を冒涜することはあってはならないと考えていますから、あなたの宗教上の信条は最大限尊重することはお約束いたします。すなわち、ご本人に内緒で輸血その他の治療を行うことはありません。 しかし、医療は本来危険をはらむものです。 どんなに軽微な医療であっても、100%の安全は保証できません。 そして、我々医師の職業上の本能として、病気で危険な患者さんを目の当たりにして、それを見殺しにするということはあなたの宗教上の信条を踏みにじる事と同じか、それ以上の苦痛であることをご理解ください。 もし、万が一、輸血等が必要な状況に陥った場合、我々が取り得る方法は、社会常識に乗っ取った形になります。すなわち、全身麻酔下のようなご本人の意志を確認できない状態で危険な状況になれば、通常はまずはご家族に手早く説明をし、次の治療の選択をいたします。 その場で、ご家族が、「あなたご本人の意志を尊重し、輸血等を拒否する」とおっしゃれば、それに従います。 その場で、ご家族が、「あなたに生きて欲しいから、あなたの意志には反するができる限り治療をお願いします」とおっしゃれば、我々はそちらに従います。 以上のことを納得できれば、手術の同意書にご署名ください。 これが、唯一正しい説明かどうかは、head&neckにもわかりません。ただ、誠意をもって正直に考えた説明であることだけは事実です。 病気だけではなく、個人の信条、考え方を併せて受け止められる医療が理想ですが、実際に現場で仕事をしていると、なかなか理想通りにはなりません。 難しい問題だと思うのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|