手術をすると、当たり前の話ですが、出血します。出血したまま創部を閉じたり、手術を終了することは無いので、必ず止血を確認してから手術を終了します。つまり、手術終了時点では血がびゅうびゅう出ているということはほぼあり得ないと思っていただいて良いでしょう。現在、止血するには大きく3つの方法があります。一つ目は結紮といって、糸で血管を縛って止めること。二つ目は焼灼で、主に電気メスやバイポーラという止血用の電気焼きごてみたいなもので焼き止めること。三つ目は薬剤で、止血作用のある薬を注射したり創部に当てたりすることです。上で述べた順番に確実性は高いので、明らかに出血している場所は結紮するのが基本です。ところが、場所に寄っては糸で結べない、または結ぶことが難しいところもあり、こういう場合は二番目の焼灼や三番目の止血薬剤を使用することになります。
頚部の手術に関して言うと、細い血管は焼灼で十分ですが、動脈や太い血管は結紮が必要です。しかし、これには何ミリという基準があるわけではありません。経験上、大体このくらいなら焼いてよく、これは結紮というのは、術中に術者によって瞬時に判断されます。同じ太さの血管でも、年齢や体格によって左右されますし、ときには電気で焼いてみてダメなら結紮ということもあります。
電気メスで焼灼して止血する方がもちろん結紮するよりは手間も少なく早いので、可能な限りは焼き止めたいのですが、これを過信しすぎると後の出血につながります。したがって、最初から、あ、これは無理だなと思えば結紮してしまうことも多いのです。
この辺りの判断は、さすがに経験がものを言う部分が多く、10年以上外科系の医師をやっていると大体似たような感じになってきます。同じ太さの血管でも、年齢や組織の柔らかさ、合併症などであるものは結んだりあるものは焼いたりしますが、まさに感覚の世界で、極論を言えば摂子でつまんだ感じとか、最初に皮膚を切った時の感じで決めることもあります。なかなか言葉で説明するのは難しく、この辺りの感覚の伝授が外科系には非常に重要です。結局、こういった手技というものはマンツーマンでしか伝わらないのですが、この辺りが、外科系医師が量産できない理由でもあります。
つくづく職人だなあと思うのでした。
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