先日、外科医の手先の感覚について記事にしましたが、「器具にも気を遣うのでしょう」というコメントを頂きました。言われてみるまであまり考えたことがなかったのですが、そういえば知らず知らずのうちに自分自身も相当器具にこだわっている部分があることに気づきました。
手術器具について言えば、同じメーカーの同じ道具でも、一つ一つ微妙な差があります。たとえばモスキート鉗子でも、握りの強さ、先端の細さ、かみ合わせが違い、いちばん気に入っているものにはテープでしるしをつけて、いつも同じものを使ったりします。head&neckの病院には外来ブースが4診まであり、すべて同じメーカーの顕微鏡のはずですが、4番の顕微鏡が特にお気に入りだったするのです。どこがどうというわけではないのですが、「なんとなく」の類ですが、たまたま別のものを使うと、妙に仕事がはかどらなかったりするので馬鹿になりません。
人間の感覚というのは、本当に微細なもので、それを研ぎ澄ましてゆくとどうしてもある種のこだわりが出てきてしまいます。我々外科系医師のこだわりは、料理人が常にお気に入りのフライパンや包丁を使ったりするのと似ています。他の道具でもそれなりにこなせるのですが、いい仕事をしようとするとどうしてもしっくりくる道具でないと上手くいかないのです。食通の人にしかわからないような僅かな味の違いを料理人が求めるように、医師にしかわからないような仕上がりを追求しているだけなのかもしれませんが、ここまでディープな世界になると、ある意味自己満足の部分も大きいのでは、と感じることもあるのでした。
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