日々、まじめに診療をしていますが、一般の方が汚いと思うかも知れない仕事の中にもお気に入りのものがあります。
耳鼻科医は、毎日外来で人の鼻の中や耳の中を覗き込みます。我々の大きな武器は吸引管です。まあ、簡単に言ってしまうと掃除機なのですが、耳鼻科の外来には、必ずユニットと呼ばれる器械台があります。これには、鼻粘膜に噴霧する麻酔や粘膜収縮剤のスプレーと共に、吸引用の管が備えられています。この吸引管で患者さんの鼻水をずるずるっ!と吸うわけです。
副鼻腔(蓄膿症)の手術の後には、患者さんは術後処置として広げた副鼻腔に溜まったカサブタや鼻汁を掃除に通院して参ります。充分麻酔して鼻の中を見ると、たくさんの獲物がうなっておりますから、これを丁寧にピンセットや吸引で除去して、綺麗な鼻副鼻腔にしてゆくわけです。この作業、細かいのですが、概ね耳鼻科医は大好きです。まずは、固まったカサブタをピンセットでつまんで取り出すと、鼻の中は粘液(鼻汁)だけになります。術後の鼻汁は血液が混じってやや粘調度が上がり、なかなか吸引するのに時間を要するのですが、これがまた、ついつい時間を忘れて気合を入れてお掃除してしまいます。個人差はありますが、患者さんによっては粘調度が特に高くねばねばの方もいます。それでも負けてはおれません。もっとパワーのある吸引が欲しい!なんて思いながら最期のひと粘りまで吸い尽くさずにはいられないのです。いくら麻酔をしてあるといっても、鼻の中を触っているわけですから、ふと気が付くと患者さんは涙ぽろぽろになっているなんてこともあります。(痛いのもそうですが、鼻を刺激すると涙がでるのです。)
耳垢除去も熱中度では負けません。「先生、最近耳が聞こえなくなったんだよ」「どれどれ、耳を診せてください」「わしゃしばらく掃除しとらんで」…特にお年寄りの中には、3年間耳掃除なんかしたこと無いなんて方がたまに受診されます。ベッドに横になって頂き、顕微鏡をあわせて、さて、耳垢除去開始です。出るわ出るわ、凄いときはソラマメくらいのものが取れる場合もあります。耳垢ですから、あせって取ると崩れてしまいます。できれば大きい塊のままとりたい!そーっとそーっと周りから攻めて、少しずつ引きずり出して、がっぽりと摘出すると、それは気持ち良いのです。逆に、「痛いからもういいよ」なんて言われるとちょっとがっかりしたりします。
来年、head&neckの科には2名の後期研修医が入ってきます。そのうちの一人は、見学に来たときに患者さんの耳垢を摘出した瞬間、とても嬉しそうにしていました。…こやつ、素質があるなと思ったのでした。
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