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カテゴリ:医療制度
3月は送別会の季節です。head&neckの病院は医師が200人以上いますから、異動人数も多く、この時期には30人近くの医師が入れ替わります。head&neckと比較的関わりが深いのは、形成外科、麻酔科、外科、小児科、放射線科、内分泌、脳外科などですが、特に麻酔科の先生には日ごろから無理を聞いてもらって麻酔をかけてもらっているので、異動を聞くとさみしくなるものです。
いま、当院には10人の麻酔専従医が居ます。昔はもっと少人数でやっていたものが徐々に増員してこの人数になったのですが、今回、歯科麻酔(歯科医の先生が、麻酔の研修としてローテートしている状態)出身の先生が移動で病院を去ることになりました。歯科麻酔については、少し前にニュースになったりして、色々と問題があります。その是非についてはここでは敢えて触れません。 あくまで、我々がお世話になっている歯科麻酔医個人についてですが、彼は溢れる才能と技術をもって麻酔を担当してきました。血管確保は誰よりも早く上手く、挿管もCV抜きん出ていました。勉強熱心で麻酔の成書は何冊も読破しもちろん麻酔管理も上手で、彼が麻酔をかけてくれると非常に手術がやり易いのです。人柄も良く、全国的に麻酔科医が不足していることもあり、数年にわたり当院に勤務し、長く外科系の手術業務を支えてくれた一人でした。 彼のことを思うと、資格というものと、才能というものについて考えさせられます。我々医師は、医師免許を取って初めて技術を磨き始めます。技術というのは、素質がかなりの割合を占めますから、大方の新人医師は自分が外科系に向いているか内科系に向いているかは自分でそれなりに把握しているでしょう。途中で向いていないと感じたら、労力は要りますが科を変更することだって出来ます。逆に言うと、才能を開花させるのにかなりの年月を要します。ところが、歯科麻酔医は、資格という大前提がグレーゾーンであるため、たまたま数年をかけて才能が開花してしまった人間を作り出してしまうことがあるのです。 江戸時代、土佐藩では武士は上士と郷士に身分差別されていました。上士は殿様にもお目見えでき、藩の要職に就くことが可能でしたが、郷士はいくら優秀であってもお目見え不可能、要職は与えられない身分でした。有名な坂本竜馬はこの郷士出身です。竜馬の友人で武市半平太も郷士出身ですが、白札郷士といって、上士と郷士の中間のような身分を得ていました。白札郷士は、殿様に意見を具申できるのですが、あくまで郷士ですから要職には就けません。 優秀な麻酔技術を持った歯科麻酔医というのは、ある意味この白札郷士のような存在です。麻酔医であって麻酔医でない、といった鵺のようなものです。辛い立場です。 制度の狭間に落ち込んで、苦しんでいる人は医療以外の分野にもたくさん居るのではないかと思いますが、実際目の前にすると深く考えてしまうのでした。 ←まだまだ参加中。一日一回クリックを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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