新人と書類
4月も半ばを過ぎ、いろんな職場に新人が配属になっててんてこ舞いです。head&neckの職場では、これまで長い間がんばってくれたS医師が公立病院の部長に栄転し、代わりに3名の新人を迎えました。1人は医師13年目、あと2名は3年目の若い医師です。これでスタッフは合計9名となりました。市中病院で9名の耳鼻科医を抱える病院は数えるほどしかありません。大所帯となって、指導する側にも色んな注意が求められます。 医師が医療さえしていればよかった時代は過ぎ、現在はチーム医療が全盛なため部下の医師だけではなく看護師、技師、ヘルパーなど、多種多様の職種に対する指示やアドバイスはもちろん、新しい医療機器の選定、業者との交渉、電子カルテの仕様、ホームページの更新など、一昔前にくらべると事務作業の増大が明らかです。特に一つの医療行為をするために必ず書面での説明を求められるようになり、書類仕事が膨大になりました。カルテを電子化することで手書きの労力は省略されていますが、それ以上に必要書類が増えているため、勤務時間の中で書類作成に取られる時間は増えています。 新人、特に医師になったばかりの若い人たちは、こういった書類仕事を鼻歌交じりで無造作にこなせるようにならないとなかなか医師としての仕事ができません。たとえば外来で一人手術を組めば、それに伴って術前検査、CT予約と同意書、麻酔の同意書、手術の説明、同意書、入院診療計画書、入院指示書、手術申込書が発生します。これを要領よくこなさなければ次の患者さんを診れません。あらかじめある程度のひな形は作ってありますが、どうしてもケースバイケースである程度は手入力になりますから、これらを覚えてしまわないと、次の患者さんを診るまでに何十分もかかってしまうのです。長い間やっていると、ひな形から修正するべき場所が頭に入っていますから数分あれば処理が済みますが、最初のうちはなかなか大変です。どの職場、どの職種でもある程度こういったことはあると思いますが、4月になると、毎年医療事故が増えるのは不慣れなシステムになじむのに時間がかかるということがあるかもしれないのです。中には、「それは医療には許されない」などということを言う方もいますが、それであるならば医療のみに集中できるシステムにしたいものです。ところが厚生労働省と保険局、はたまた世論まで、「インフォームド・コンセント」を大事にしなさいという指導が来ていたりします。 こういった矛盾を抱えつつ、医師としてのスキルを上げてゆく努力をしなければならないので、今の若い先生たちは大変です。技術を身につけるまでの時間が長ければ長いほど、医師として活躍できる時間は短くなるわけで、長い目で見ると決して世の中のためになりません。医療行政側や報道、世間の人たちにも、この辺の難しさを分かってほしいと思うのでした。