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カテゴリ:医事紛争
毎日新聞社【2008年3月7日】の記事より。
医療過誤:2医師を書類送検 のど手術で男性死亡--柏崎署 /新潟 柏崎署は6日、医療過誤で患者を死なせた業務上過失致死の疑いで、いずれも十日町市在住の耳鼻咽喉(いんこう)科の男性医師(39)と麻酔担当の男性医師(31)を地検長岡支部に書類送検した。 調べでは、医師2人は刈羽郡総合病院に勤務していた04年3月3日、のどを手術した柏崎市の男性会社員(当時28歳)を、誤って肺水腫による呼吸不全で死亡させた疑い。 患者はへんとう腺の摘出手術を受けたが、血が止まらず、止血手術を受けた。しかし、患者の胃の中に血液がたまっている恐れがあったにもかかわらず、医師が確認を怠り、吐いた血を肺に吸いこんだという。【根本太一】 耳鼻科の分野では、扁桃摘出術はおそらく耳鼻科医になって最初にやる手術のうちの一つです。つまりそれほど数が多いということでもありますが、head&neckが初めてやったのもこの手術でした。ちなみにうちの病院では年間160件の扁桃摘出術があります。 どんなに上手な先生がどんなに上手くやっても、ある一定の確率で術後出血が起きます。以前5年間の統計を取ったら、術後出血で止血術となる確率は0.5%くらいでした。つまり、約200人に一人の割合で術後出血が起きることになります。head&neck自身もこれまでに数件の止血術の経験がありますが、現場では相当ドタバタします。 術後出血の知らせが来て病棟に行くと、たいがいは患者さんは口からぼたぼた血を流しながら容器を抱えて唾と共に血を吐き出しています。結構飲み込んでいる患者さんも居て、その場合に不用意にのどをのぞくと反射が起きて嘔吐し、時に意識不明になることもあります。出血が舌根といって舌の付け根の場合や患者さんの反射が強い場合は、病棟で処置することは不可能なので、手術室で止めようという話になります。 全身麻酔をする際には、胃の中に食物などがある場合、格段に危険度が上がります。呼吸の管理をするために筋弛緩剤を使って息をとめるのですが、のどから出血しているので息を止めると肺に血液が流れ込みます。おぼれているのと同じことです。場合によっては嘔吐し、更に血液は固まりますから、吸引しにくいといった面もあります。そんなことから、扁桃術後出血の麻酔は、ベテランの麻酔科医でもかなり緊張する症例です。 術後出血については、我々が手術の説明をするときに必ず患者さんに説明します。head&neckがいま居る病院では麻酔科医が複数いて、皆非常に気道確保に高いスキルを持っていて常に協力していただけるので比較的安心して手術をしていますが、かつて居た病院で麻酔科の常勤の先生がいないところもありました。そう考えると、同じような状況になったかもしれません。 扁桃腺の手術の適応になる患者さんは、おおむね年に5~6回以上咽頭痛、発熱を繰り返し、日常の仕事を何度も休まざるを得ない状況になった人たちです。この記事の医師も、こういった患者さんを助けるために手術をしたのでしょう。結果が結果だけに、何らかの保障や償いはするべきだとはおもいます。しかし、書類送検というのはこの医師を犯罪者扱いすることです。犯罪者扱いとは、悪意のある行為に罪を課すことです。その適応にはもっと慎重になるべきであろうと思うのでした。 ←30位から40位くらいで参加中。一日一回クリックを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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