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臨床の現場より

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カテゴリ:医事紛争
 先日、head&neckの勤める病院でこんなことがありました。(個人情報に配慮するため、ある程度創作が入っています、念のため)

 若年性の脳血管奇形のため、6歳のA君がくも膜下出血を起こし、夜中に緊急手術となりました。もともとA君は3歳のときに一度意識を失ったことがあり、その際の検査で脳の動静脈奇形を指摘されたのです。いろんな治療法を医師に説明され、両親は注意深く外来で経過を見て、少し大きくなって抵抗力がついてきたら手術をしようという方針を選びました。小学校になる前に手術をする計画を立てている矢先の出来事でした。
 その日、脳外科の医師は予定手術が深夜まで長引き、A君が病院に運ばれてきた午前3時にも手術室で執刀している最中でした。へとへとになりながらも何とか並列で緊急手術をこなし、A君は手術終了後、ICUへ運ばれました。小児の大きな術後は安静を保つことが難しいのと、脳の手術の後は呼吸が落ち着かないために、沈静といって薬でしばらく眠らせて、気管内挿管をした状態で数日観察することはよくあることです。A君もこの状態でICUに入室しました。
 沈静して3日目。A君の状態は徐々に改善し、目を覚まさせる方向で、朝から薬は少しずつ量を減らしてきつつありました。
 朝8時に、定期的に口の中の掃除をして唾液を取り除く作業を看護師が行っている最中にA君はいきなりむせ返り、胃液と胃内容の血液を大量に嘔吐しました。急いでたまたまその場に居た脳外科の医師が口腔内を吸引しましたが、A君の呼吸状態は乱れたまま元にもどりません。痰が多く、気管内チューブを通しての人工呼吸が徐々にしにくくなってきます。おそらくは嘔吐して激しくむせたためにチューブが浅くなって抜けかけていると判断した脳外科の医師は一旦チューブを抜去し、再度挿管することにしました。ところがいざ喉頭鏡をかけてみると、数日間の挿管と手術そのものの影響か、のどがむくんでとても再挿管できません。
 ばたばたと何度かトライしているうちに徐々にチアノーゼがひどくなってきます。小児科の当直明けの医師も駆けつけて交代してみましたがやはりうまく行きません。
 大急ぎでhead&neckが呼ばれました。たまたま朝からカンファレンスのために在院していたため、1分でICUに到着しました。head&neckが着いたとき、A君はすでに瀕死の状態です。酸素濃度を示すSaO2は50%、心停止寸前です。
 挿管は不可能と判断したhead&neckは大急ぎで気管切開を行いました。子供でもあり、少し太り気味の上頚部がむくんだ状態だったので輪状甲状膜切開といって上部の開けやすい部分にアプローチしました。その最中に完全に心肺停止状態となりましたが、かまっておれません。切開部から気管内にカニューレを入れるまでおよそ20秒、気道確保し、蘇生をしているうちに再び心臓と肺は動き始めました。
 状態は落ち着きましたが、輪状甲状膜切開をそのままにしておくと色々な合併症が生じるので、早いうちにこれは閉じなければなりません。10時ごろ、全身麻酔下にあらためて気管切開を行いました。その間、主治医はご家族に状況を説明し、何とかご理解いただいた様子でした。

 さて、午後になると色んな物事が動き始めます。まず最初に動いたのはその場には居なかった安全管理担当のとある診療部長でした。彼の仕事は、今回の出来事の原因を調べ、そこに医療側のミスや事故が無かったかどうかを調べ、もしあれば対策や対応を検討することです。看護師は口腔内吸引の際に深くやりすぎなかったか、脳外科医は鎮静薬が少なすぎなかったか、気管切開のタイミングが遅すぎないか、麻酔科医は最初の挿管が浅すぎなかったか、チューブの固定がしっかりしていたか、耳鼻科医は果たして輪状甲状膜切開が妥当であったのか、主治医は家族にどのような説明をしたのか、それを文書に残したのか、などの質問をされました。
 もちろん、安全管理部長も医師であり、総合的にみて今回の出来事は全く妥当な処置であったことや、それどころか通常ならば救命し得ない状況を実にタイミングよく各科の医師が揃い、看護師もよく動いて事無きを得た症例であることを後に理解してくれました。話は当日の夕方開かれた安全管理委員会を通して院長まで昇り、結局関係者はお咎め無し、というか翌日には院長にお褒めの言葉をいただきました。
 とはいえ、事情を聞かれている最中の不快感はかなりのものです。ここまで無我夢中で一生懸命やって、必死で救命できたのになぜ尋問まがいのことをされねばならないのか、はっきりと不愉快さを出す医師もいました。head&neck自身も、これで責任を問われてはたまらないと感じました。

 医師同士であっても、現場に居ない人間にその場の判断を即時に理解させるのは難しいのです。いわんや、医療に関して知識のない人にこれを判ってもらうのは至難の業だと思います。

 医療に関連した不幸な出来事が起きたとき、マスコミや、司法が正しく医療現場の状況を判断することの危険性と、必死で頑張った現場を鞭打つことの理不尽さを感じたのでした。


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最終更新日  2008.11.07 01:04:28
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