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カテゴリ:医療制度
マグネットホスピタルという言葉には定義はなく、自然発生的に生まれたものです。その先駆けががんセンターで、全国各地に県立のがんセンターがあり、総本山的な病院として国立がんセンター中央、東病院があります。その名の通りすべて公立病院で、がんの治療を専門に行う病院です。厚生労働省主導で建設され、がんの治療と研究をその主目的としています。その目的どおり、研究面でも優れた業績を積み上げており、これまで、日本のがん治療は各大学病院が主に担ってきましたが、ここ10年ほどは主導権はがんセンターに移りつつあります。もともと、がんセンターというのはアメリカのCancer centerの模倣で高度専門医療を謳い文句とし、最初から患者を選んで診察するというコンセプトですから、この点だけをとっても日本の医療の最大の特徴である「フリーアクセス」と真っ向から対立しているわけです。さらにはエビデンス・データー重視のロジックモンスター医師が多く、一般の医療現場には「がんセンター嫌い」の医師が多数存在しますが、今回はそれについては詳細を述べることは避け、医師の給与待遇面に話を絞りましょう。
先日のニュースからの抜粋です。 国立がんセンター:麻酔医、相次ぎ退職 10人が5人に、手術にも支障 記事:毎日新聞社 08/04/03 ◇厚遇求めて転籍 国立がんセンター中央病院(東京都中央区、土屋了介院長、病床数600)で、10人いた常勤麻酔医のうち5人が昨年末から先月までに相次いで退職し、1日の手術件数が2割減る異常事態になった。より待遇の良い病院への転籍などが退職理由で、「がん制圧のための中核機関」を理念に掲げる日本のがん治療の“総本山”に、全国的な医師不足が波及した形だ。【須田桃子】 がんセンター中央病院は常勤医師約150人、1日当たりの外来患者約1000人と、国内でも最大級のがん治療専門施設。これまでは、1日当たり約20件の外科手術をしてきたが、術中の麻酔管理を担当する麻酔科医が半減したことで、3月末から1日約15件しかできなくなった。手術までの待ち時間も今後、長引くことが予想されるため、特に急ぐ必要のある病状の患者に対しては、都内や患者の自宅周辺の病院の紹介を始めた。院内にも、麻酔医の不足を知らせるお知らせを掲示し、患者に理解を求めている。 関連学会や各地の病院を通じ、麻酔医確保を図っているが、「すぐには解決のめどがついていない」(土屋院長)のが実情だ。 土屋院長によると、退職の主な理由は、待遇の良い民間病院や都立・県立病院への転籍だ。 土屋院長は「中央病院は、医師が勉強する環境は十分整っているが給料は並以下で、施設の努力で確保するには限界がある。医師の絶対数を増やす政策が不可欠だ」と話す。 毎日新聞の記事なので、不勉強が目立ちます。ミスリードを招く表現は割愛してあります。事実だけ捉えて考えると、すでにがんセンターはマグネットホスピタルでは無くなったと言ってよいでしょう。head&neckの知り合いや、もと部下もがんセンター系列病院に研修したり派遣したりで勤めていた医師がたくさんいますが、一様に口をそろえて言うのはその待遇の悪さです。がんセンターが設立した当初から若い医師をひきつけてきたのは、がん専門に勉強が出来ることや専門技術を学べることでした。一般の病院に居るとがん治療の必然性を感じますから、症例の多い病院でノウハウを学ぼうという気持ちが起きるのは当然です。さらに、大きな売り物の一つとして「学閥がない」という点も挙げられます。がんセンターの部長クラスの医師の出身大学は様々で、どこの大学だからと言って差別はしない雰囲気ができあがっていますから、医局というものの閉鎖性を嫌う医師にとってはすこぶる魅力があります。 ところがこの魅力の影には、「厚生労働省管轄の公立病院」という事実が隠れていました。公立病院の医師は公務員ですから、定数と給与があらかじめ決まっています。それにもかかわらず多数の勉強に来たい医師を受け入れるにはどうするか。「勉強しに来たんだから」という名目で、日雇い医師として安い給料で我慢していただくしか方法がありません。かくして、30歳を過ぎた医師を、通常の大卒よりも安い給料で朝から深夜まで労働させ、「勉強」だから超過勤務は出さない(head&neckの知っている医師の超勤は月70時間でした)という現象が起きます。大概は独身でもない限り2年も勤めると貯金を使い果たして医局に戻ってきます。 さらには、事務職員系は公務員なので、厚労省の息がかかっています。head&neckの経験でも、以前、公立病院に勤務していたとき、「現場が忙しくなったり、やめた医師がいるばあいは補充してください」と陳情しても、県側は「残った医師だけで業務はなんとか回っているのだから、補充しなくてもいいのではないか」といった回答で、唖然とした記憶があります。昨年、国立循環器病センターで、ICU担当医が集団で逃げ出した事件もありましたね。今度はがんセンターでも同じことが起きていますから、。国直轄の医療機関において起こったこれらの事件は、国の医療政策が根本的にオカシイことを象徴しています。 土屋院長の談話にも異論がありますが、要はあまりにもきつい労働と待遇の悪さに麻酔科の先生が真っ先に逃げ出しただけの話です。もともと麻酔科は外来で癌の患者さんをフォローしたりはしませんから、そういった人情に引きずられずに、良い意味で労働環境を冷静に判断するバランス感覚があります。おまけに全国的に麻酔科医師は不足していますから、仕事内容と報酬にギャップがあれば、より良い職場を求めるのが当然のことです。head&neckの周りに聞いただけでも、全国各地のがんセンターで同じような現象が起こりつつあるようです。結論としては、「がんセンター」というブランドも、「大学病院」と同じように、名前だけではすでに医師をひきつけられない事態になっているということです。 次回は、公立ではない私立病院のマグネットホスピタルについて述べていくつもりなのでした。 ←あいかわらず50位前後を行ったりきたりしながら参加中。一日一回クリックを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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