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カテゴリ:医療制度
前回までに述べてきたことは、いくら現場の医師や看護師、医療スタッフが努力しても、努力に見合った報酬や待遇を与えてくれない病院からは医療職員が逃げ出してゆくという至極もっともな現象です。残念ながら、現在の日本の行政システムはかなりの分野で老朽化し、硬直してしまっているので、この現象はなにも病院に限ったことではありません。公立の施設の能率の悪さに比べ、民間は経済原理が働きますから自主努力があり、多少なりともましな形態を保っています。
現在、日本の病院を利益率を考慮して評価すると、多くは大手の民間病院が上位に来ます。こういった病院が集まって、VHJ機構という団体を作っていますが、そうそうたる病院が並んでいます。利益率と言うと、「儲け主義」だとか、「営利病院」などの揶揄する言葉が聞こえてきますが、そこに目を向けずにまともな職員の待遇を語れるわけはありません。富まねば人を助けられません。もちろん保険診療の中での話で、美容等の自由診療は除外します。まともな医療を行い、なおかつ黒字を出すには、多少なりとも技術を評価し、なおかつ無駄を省いてゆくシステムと雰囲気がなければなりません。文章にすると簡単ですが実際は難しく、特定の個人への高報酬は周りの妬みを買いますから、民間病院では独自の方法で評価を上げてゆくしかありません。聞いたところでは、関東のある病院では、医長クラス以上はヒアリング等で次年度の年俸を決める病院もあるようですし、手厚い福利厚生でほかの追随を許さない病院もあるようです。 head&neckの病院も上記のVHJ機構に加盟していますが、はっきりいって給料は公立病院よりやや低めです。しかし、医療の行いやすさは公立と比べると天と地ほど違います。5時を過ぎたからといって手術を断られることはありませんし、お願いしておけば事務の方も残っていてくれます。もちろん超過勤務もきちんと支払われます。給料で厚遇できない分、たとえば学会の会費、出張費などは勤務実績に応じてかなりのところまで補助がでます。こういった民間病院での職員への気の使い方が、長く医師が居つく原因の一つであることは間違いなさそうです。これまで述べてきたように、若い医師は技術を学びたいがために、症例が多く、優秀な指導医のいる病院を目指しますから、中堅の医師が充実している病院には研修医も自然に多く集まり、マグネットホスピタルを形成するのです。 しかし、冷静に考えれば上記のような評価方法は小細工に属するものです。本来、医師も看護師も技術職であり、極言すると職人です。職人に対する待遇は、良い仕事をすればよい報酬を与えるのが最もまともであり、さらには現在のように高度な技術を提供することを求められる現場の医師に対する報酬としてはあまりにもお粗末なものでしかありません。かといって、例えばかつて「大学病院で偉い先生に診てもらうにはお幾らかかる」といったようなゆがんだ形での報酬は全体のひずみを惹起します。現状のような医療に対する国家ぐるみの厳しい予算制限のなかでは、おのずと限界がくることは目に見えています。というか、すでに限界に達しており、効率化の鈍い公立病院から徐々に崩壊し始めているのが現在の日本の医療の姿そのものです。 話がそれたので、すこし元に戻しましょう。かつて大学を卒業した医師を吸収してそれなりに修練、教育していたのが各大学の医局システムであり、うまく機能していたのですが、現在それがどんどん崩れてきているということは、結局のところ大学医局という勤務医管理のシステムは、医療費が極端に抑制された状態ではうまく機能しないのではないかと思います。最近の医療の現場は、大学医局のあり方を根本から見直すか、新たな医師教育の体系を作り直すか、いずれにせよこれまでのままでは生き残りは難しくなり、大きな体制の転換期にあることは間違いなさそうです。若い医師達が時代の流れを敏感に察してマグネットホスピタルに集まるとすれば、これからの医療界の方向はそちらに向かっているということかもしれません。 ただ、自分たちの置かれている状況をみると、民間のマグネットホスピタルといえど、安寧としておれないようです。逆に考えると、民間の涙ぐましい経営努力なしでは黒字が保てないほどこの国の医療行政はひずみ、医療予算は貧しく、医療制度は疲労しているのです。老朽化したマンションの中で少しでもましな部屋を探して右往左往しているのが現代日本の勤務医の姿なのではないでしょうか。このマンションの管理人の厚生労働省や、オーナーである財務省は、このまま崩落して、被害者が大量にでるのを座視しているだけだと思うのでした。 呼んでくださってありがとうございます。このシリーズはこれで終了です。 ←あいかわらず50位前後。でも参加中、一日一回クリックをおねがいします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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