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カテゴリ:医療制度
新人の後期研修医が入って2週間たちました。最初の緊張も徐々にほどけ、ゆっくりと仲間としてなじんできつつあります。どこの職場でもそうと思いますが、新しく来た人は職場の人の顔やものの場所や決まりごとを覚える時期は緊張の連続で、おそらく個々の性格が出る以前にいっぱいいっぱいの時間をすごしていることでしょう。若い医師は、それに加えて診療や技術を覚えなければいけないので、なかなか大変です。
head&neckは耳鼻科ですが、我々のような専門性の高い科では、臨床研修で内科、外科といったメジャーの科で学んだことはあまり役に立ちません。例えば、いくら全身のことに詳しくても、鼓膜の所見や鼻内の所見を正確に取るにはかなりの訓練とコツが必要です。器用な医師だと1週間で身についてきますが、通常はまともな所見が取れるようになるまで1ヶ月はかかります。従って新人医師たちは、病棟で外来で、来る日も来る日も耳、鼻、のどを覗き込むことに明け暮れます。 2年前まで、head&neckの病院は紙カルテでした。電子カルテになったときの印象は以前にこのブログでも述べましたが、かつて新人を教育するときに、彼らがどれくらい耳や鼻を診れているかはカルテの絵を見れば一目瞭然でした。不思議なもので、人間、良く見えている場所は大きく書くようになります。自信の無い部位は小さくごまかそうとします。正確に所見の取れている絵をみると、「おっ、だいぶ診得て来てるな」と思ったものです。 さて、電子カルテになって新人さんの教育で一番困っているのは、彼らの見えている耳や鼻の景色をよそから想像できないことです。電子カルテには、絵を書く機能が備わっていますが、手間を省くために、「シェーマ」と呼ばれるテンプレートがついています。あらかじめ耳や鼻の模式図がペイントソフトのように付属していて、この絵に書き込めば良い様になっていて、当たり前に所見が取れる専門医にはありがたい代物なのですが、新人がこれを使うと、あたかも隅々まで見えているようにカルテを作成できるのです。 カンファレンスで、ホワイトボードに正常な耳、鼻の所見を書かせると全く上手く書けません。そのことに気づき、head&neckと部長は愕然としました。これはまずいということになって、とりあえず新人には、許可するまでシェーマ使用禁止令を出して手書きで書かせるようにしました。ところが、皆さん経験あるかもしれませんが、マウスで上手に絵を書くのはとても難しいので、現在病棟の電子カルテは子供のお絵かき状態の所見図がずらずらと並んでいます。 ふと考えたのは、携帯電話がでるまで、結構電話番号は暗記していました。ところが携帯のメモリから直接電話がかけられるようになると、まったくといっていいほど電話番号は覚えていません。自動車だって、ナビの無いときは道を覚えていたのですが、だんだんとナビゲーションに頼って覚えなくなってきます。 便利になることで、逆に人の能力が下がっていく。微かな不安を覚えるのでした。 ←60位まで下がってしまいましたが参加中、一日一回クリックをおねがいします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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