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臨床の現場より

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カテゴリ:診療
 前々回のエントリで額帯鏡(がくたいきょう)という道具について少し触れました。医師のイラストには結構な頻度で頭に鏡の付いたヘアバンドを巻いていますが、これが額帯鏡です。これは狭いところに光を入れる道具で、head&neckが医師になってからというもの、耳鼻科以外の医師がこれを使用しているのをみたことはありません。
 この額帯鏡のしくみは単純で、額についた鏡に光を反射させて患者さんの鼻や口の中を照らします。効果的に光を集めるため、この鏡は凹面鏡になっており、患者さんの頭の後ろに光源を持って来るとその数倍の明るさで光を集中させることができます。
 ところが、皆さんも経験があるかもしれませんが、片目だけで物を見ると立体感や遠近感が失われます。特に鼻やのどといった縦に長い穴のどの変に病変があって、その中を上手に処置するとなると、この遠近感が重要になってきます。額帯鏡の鏡の大きさは直径8cmくらいで結構な大きさですから、鏡の真ん中には1cmくらいの穴が開いていて、これを通して両目で対象物を見るのです。鏡は利き目(head&neckは右目です)の前において、光軸と視軸が一致するようにします。
 最初はどうしても鏡が邪魔して、両目で見ることができません。これが長年やってくると無意識に出来るようになります。こうなればしめたもの、額帯鏡一つあればベッドサイドまで行って電灯の明かりを頼りに往診することが出来るようになります。逆に言うと額帯鏡が上手く使えるようになるまではなかなか往診に行けなかったのです。
 しかし最近は、この額帯鏡のかわりにヘッドランプといっておでこに電池やコードでライトを導いて使用するものが流行りです。確かにハロゲン光源やファイバー光源で明るく、初心者から苦労なくのどや鼻を診ることができます。便利な反面、微かな特殊技術がまた一つ医療現場から消えうせつつあります。写真にたとえると、昔アナログフィルムの時代には絞りや明かり、手振れなどに気をつけて綺麗な画像をとるのに色々なテクニックが必要だったものが、現在はデジタルカメラの器械任せでもプロ並みの画像がとれるようになったようなものでしょうか。実際使ってみるとデジカメのほうが遥かに使いやすいように、ヘッドランプのほうが楽ですから、現在ではhead&neckもこれを使用しています。
 考えてみると、光を上手に扱うということは診断の前の段階で、医療の本質は患者を診ることと正確な所見を取ることですから、医療機器の進歩により今の若い医師たちは余計な技術に時間を煩わすことなく次のステップに進めるわけです。こういうところにも技術の進歩の恩恵を感じると共に、私たちの先達である年配の医師たちの苦労は現在の比では無かっただろうなと思うのでした。


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最終更新日  2008.05.01 22:39:56
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