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カテゴリ:診療
手術の際の道具の感覚や、技術については何度かこのブログで書いてきました。(「道具のこだわり」。「手先の感覚」)道具の先端にかかる力の具合や、メスやはさみの切れ具合を生かして剥離操作をするコツなどは、文章にして伝えづらいものがあります。むしろ、文章にしてしまうと、一番大事な部分が薄れてしまい、どこが要点なのか分からなくなってしまうのです。
たとえば、皮膚を縫うときの手技にしても、手術書には「針を入れる層を等しくし、上皮の面が平面になるように糸をかける。段差ができないように注意する」と書いてありますが、最初からその通りできれば苦労はしません。マンツーマンで目の前について、「もうちょっと浅く」とか、「もっと角度をつけて」とか、一針一針ごとに教えるのを根気よく続けてゆくことで指が覚え、自然にできるようになってきます。さらに複雑な手技をやらせるには、こちらが「そろそろできそうだな」と思えるというのが重要なポイントで、確固たる基準があるわけではありません。 職人の世界では、技術の伝承は完全に師匠-弟子の徒弟制度で、師匠の言うことは絶対です。師匠がこうしろといったことは何も考えずに実行し、脊髄反射で手が動くようになって初めて応用ができ、オリジナリティが出せてきます。外科医の世界でも、究極のことを言えばこれと同じですが、医学という学問をやりすぎて頭でっかちになると、素直に師匠に盲従できない若い医師が多く、このことが昨今の外科医離れに拍車をかけています。しかし、100人のうち99人までは、体と手が覚えるまで手技をやりこまないと次のレベルには進めません。 若い医師に手術を教えていて、「なぜこうするのですか?」「こうしてはいけないのですか?」という質問をする人が多くなりました。もちろんそれぞれに理由はあります。「それはこうだよ」「それはこういう訳でやっちゃだめだよ」と答えることもできますが、手術という連続した手技のなかでその説明のために作業を止めるわけには行きません。結局、何も言わずにこちらの言う通りに手が動く医師のほうが伸びるのが早いのです。 ゴルフでも、サッカーでも、テニスでも、プロと言われる人々は毎日毎日感覚をとぎすまし、練習をしない人はいません。外科医にも同じことが求められますが、一回一回が臨床実技であり、失敗は許されません。こういう状況のなかで後輩を育てるには、感覚を伝授することも重要になってきます。「触った感じは摂れているか?」とか「今、神経切った感じがしたか?」とか、「力のいれ具合はこれくらい」といった事を手を取って教えるしかないのです。 手技の最中に、相手の目をみて、手を取って、「この感じだよ」と教える。これにまさる教育法はないと思っているのでした。 ←苦戦しつつ参加中、一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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