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カテゴリ:医療制度
新臨床研修制度が始まって、大学の医学部を卒業したての医師が臨床医になるためには、2年間の研修が義務付けられました。臨床医療に必要な知識、手技を広く身に着けるためという立派なお題目がついていますが、要約すると「便利屋を増やす」のが真の目的です。これまでにも「研修医」というのは存在しましたが、あくまで自分の専門とする科に属して、それに必要なやり方を学んでゆくという方式でした。以前の制度では、外科なら外科所属、内科なら内科所属の研修医として数年間学び、その科の中で徐々にやりたいことを絞り込んでゆく形を取っていました。
患者さんの側からみると、医師免許を持っている以上はどんな病気でも専門外といわず、とりあえずの応急処置ができる医師が増えると思われるので、現在の制度が施行されたのを覚えています。この制度が始まるまでは、それまでの各科ごとのストレート研修が主流で、ほとんどの医療者は日本が医師不足であることの認識がありませんでした。皮肉にも新臨床研修制度はこの事実を浮き彫りにし、医療関係者に日本医療の危機を認識させることとなりました。 いずれにせよ、絶対的に医師数が不足しているので、どういう風に研修制度をいじくっても労働環境が劇的に改善することはありません。しかし、猫の目のように変わる臨床研修制度に翻弄される若い医師たちは哀れです。以前は大学卒業の時に決めていた自分の専攻を決める時期を2年間先延ばしにされているわけで、個人差はありますが、学生の時代に行う臨床実習に身が入らなくなったという指摘もあります。また、卒業したときは小児科や産科希望だった学生が、2年間の研修中に現場の過酷さを見てしり込みしてしまい、他の科に流れてしまうということもあるようです。 急がばまわれといいますが、産科や小児科、しいては医師数不足の勤務医の人数を増やすには、まず病院勤務の医師たちが希望を持って未来を語れる状況を作らねばなりません。専門を決めるまでに、現場の先輩がぼろぼろにくたびれているのを見てしまったら、そこへ飛び込む勇気はなかなか出るものではありません。忙しいことは一朝一夕に改善するわけにはいきませんが、せめて現場の先輩が、「疲れてはいても面白くて充実している。大変だけどこんなにいいこともある」と言える制度でなくては、今後も勤務医は減り続けるでしょう。 制度をいじくるお役人や政治家は、美辞麗句を並べてもっともなことをいいますが、現場から見ると、空虚な言葉遊びと議論に熱中しているだけで発言に迫力がない。現場の実情を実際に見に来る政治家や役人なぞ皆無です。自分が病気になると、役人としての立場や政治家としての権力を発揮してVIP待遇を求める人たちがほとんどです。本気で医療を良くしようと思っているならば、ただの一般患者として混み合っている総合病院に受診してみるはずですが、残念ながらそういう話を実際に聞いたことはほとんどありません。彼らの行動も、言葉もむなしい空蝉です。 まだまだ、政治家にも、役人にも、真剣味が足りないと思うのでした。 ←やや上昇、ありがとうございます。参加中、一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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