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カテゴリ:診療
耳鼻咽喉科というと、みみ、はな、のどを診る科で、一般の方のイメージは中耳炎とか、扁桃炎とか、鼻炎の治療をしていると思われがちです。しかし、実際は首から上の、眼球、背骨、脳を除くすべての臓器を扱う科です。意外なところでは、めまいも耳鼻咽喉科の専門分野のひとつだとご存じでしたか?
めまいというのは読んで字のごとく「目が回る」現象なのですが、めまいの9割は命に関わることのない「内耳性眩暈症」と呼ばれるものです。その内耳性めまいを来す疾患で有名なのはメニエール病ですが、実際はそんなに多いわけではありません。ほとんどは「良性発作性頭位変換性眩暈症」という長い名前のめまいです。英語で頭文字をとって、BPPVと略されたりします。 簡単にこのBPPVの仕組みを説明しましょう。 内耳という所に三半規管という平衡器官があります。この三半規管、半円形の細い管(半規管)が3本、3方向に配置されています。この管の中にはリンパ液という水が入っていて、壁にはカルシウムの砂がびっしりとひっついています。人間が頭を動かすと、このリンパ液が半規管の中を流れ、その流れで砂が少しずれて、そのずれを感じ取ることで平衡感覚を脳に伝えているのです。 なにかの弾みで、この砂が壁から剥がれ落ちたりすると、半規管の中で砂が激しく転がることになり、めまいを感じるというしくみになっています。したがって、このめまいで死ぬことはありませんし、数日たてば砂は吸収されて溶けていきますから、めまいはおさまります。簡単に言えば、体のなかで乗り物酔いを起こしているようなものです。 ところが、めまいというのは非常に辛く、直接感覚に訴える症状が自覚されるので、初回発作の場合は患者さんはたいていビックリして救急車を呼んだり、脳外科にかかったりして大騒ぎします。もちろん、中にはまれに脳出血の方がいるので一概には言えませんが、こちらが「大丈夫ですよ」と言っても信用してくれない患者さんが多いのです。 「そんなこといったってこんなに気持ち悪いのだから何かあるに違いない」 「頭のCTもとらずに耳医者風情がなにを言う」 「脳外科の専門の医者を呼んでくれないのか」 などなど。head&neckもご本人、ご家族に随分罵倒されました。 まあ、確かにかなり自覚症状のきつい病気なので、うろたえる気持ちは分かります。研修医の頃こそ、色々患者さんに言われるたびにげっそりなっていたものですが、近頃はめまい患者さんというのはこういう反応を示すものだと達観できるようになりました。 それにしても、めまいというのは体調やストレス、寝不足の他に、天気や気圧にも影響される不思議な疾患です。台風がもうすぐ来るとなると、外来にめまい患者さんが押し寄せます。 良く言えばまじめで几帳面な人、悪く言えば神経質な患者さんが多い傾向にあり、連続して受診されると、なんだかこちらも神経質になってめまいがしそうになります。 たかがめまい、されどめまいなのでした。 ←やや苦戦中、一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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