病気の治療中、主治医以外の医師(多くは他の施設の同科の医師)に「自分の今の治療はこれでよいのか」ということを尋ねに受診することをセカンドオピニオンといいます。直訳すると「第二の意見」ですが、現場レベルでの語感をはっきり言ってしまうと「他の医師にも診て貰いたい」というほどの意味になります。日本人の悪い癖で、横文字化した言葉は正当化されると同時に、正しい意味を履き違えてしまうところがあり、head&neckは無条件に賛成するわけにはいかないというのが正直なところです。
正しいセカンドオピニオンの提案方法はどういったものか、といえば、患者さんが自分の病気を理解し、それと戦うために、目の前の医師とは違う方法と方向から説明してもらい、病気に対する対応法を自分自身の中で練り上げるために他医の診察を受けたいという意志を明確にすることです。ところが、この意味を実践できる日本人は少数派です。日本人のセカンドオピニオンの求め方というのは、「もっと良い治療法がないか探す」ための転医なわけで、そういう意識で紹介状を求められることもしばしばです。
癌診療に携わる医師は、多かれ少なかれ時代の最先端の治療に対して敏感です。head&neck自身も年に数回は学会に顔を出して議論に加わりますし、自分が5年前に行っていた医療よりも進歩していることは間違いありません。患者さんに提案するのは、十数年かけて自分の専門分野として蓄積してきたノウハウの中から、その人の病気と人間性に合った選択枝です。もちろん、最初からこれでなきゃだめという言い方はしませんし、選択枝は常識的に複数です。そうして、こちらなりに考え抜いた治療法を「もっと良い方法があるに違いない」と否定されるのは辛いことではあります。誤解を防ぐために書いておきますが、辛いのは、自分が信用されないこともそうですが、何より目の前の癌の患者さんを治療するための時間が喪われてゆくことです。現在のような医師不足の状況では、専門病院の予約をとること自体にかなりの時間を要し、その間に病気が進行してしまうということをしばしば経験しています。
もちろん、セカンドオピニオンも悪いことばかりではありません。多くは、紹介先の病院から、言葉は悪いですが「追い返されて」きます。言いかえれば、こちらが提案したのと全く同じ意見であるから、早く治療を開始したほうがよいと言われて来る方がほとんどです。頭頸部癌に専門に携わる医師は実は日本中でも少数で、全国で200人は居ませんから、有名どころの半分以上は顔見知りです。そういったこともあって、逆に紹介先で患者さんは軽くたしなめられて戻ってくることもあります。素直に紹介状を書いて、よその医師の話を聞いて、逆に以前より信頼していただける場合だってあります。
ただ単に、患者さんは「医師に納得していない」のではなく、「病気に納得できない」ということなのは明白で、我々はそれを分かっています。しかし、医師や患者の側からの言葉が足りず、コミュニケーションに齟齬があると両者は混同し、患者さんの怒りの矛先が容易に医師個人に向けられてしまうことがあります。医療訴訟の多くは、このギャップから生まれてくるものであると思っていますが、残念ながら多忙を極める勤務医にとって、一人一人の患者さんに十分理解を得られるだけの時間はありません。そのためには、せめて現在の3倍くらいの医師数が必要だと思うのでした。
←なんと26位まできました。ありがとうございます、でも一日一回のぽちを。